見出し画像

三毛あんり「generic portrait」を観た

 右耳の聴力低下が生じて早一ヶ月。物音がするたびに揺らぐ視界を正し、エビスアートラボで開催中の三毛あんり「generic portrait」を観てきた。

画像1

 日本画、を初めて観た。事前に日本画について少し勉強して行ったが、百聞は一見に如かず。DMやSNSの画像で見ていたのとも違う。本物は凄まじい美しさだった。のっぺりしている、とも違う。極限の球面を平面で観ているような感覚だ。日頃、赤ん坊の透き通った肌を見ているからか、子どものそれと似ていて思わず触れたくなってしまう。

画像2

画像3

画像4

 本日が初日ということで、作家の三毛さんが在廊していた。「日本画は画材が高価なイメージがあります」とわたしが聞くと、三毛さんは丁寧に説明してくれた。日本画は「膠(にかわ)」と呼ばれる動物の皮や腱などを煮出してでた上澄み(コラーゲン)を乾燥させたものを、和紙に接着させるそうだ。(わたしはズブの素人なので知らなかった)絵具も、ハマグリや牡蠣などの貝殻を粉にした胡粉というものや、ラピスラズリやアズライト鉱石など貴重な鉱石を原料にしたものがあるらしい。(これは独自で調べたことなので違っていたらすみません)「でも、日本画だから特別、ということはなくて、他の絵画と同じと思いますよ」と三毛さんは微笑んでいた。他にも、和紙が水を含むと縮んでしまうため木材に張って固定していることなど、いろいろ教えてくれた。なるほどこれは、どーりで見たことがない質感だ、この思わず触りたくなる円やかさは、丁寧に紡がれている日本画ならではのものなのか、と納得した。

画像5

画像11

 初日ということで、オープニングパーティーが開かれた。わたしが初めてエビスに行った日も、たまたまオープニングパーティーの日だった。コロナの影響もあり一時休業していたエビスで、こうしてまたみんなで机を囲んで原さんの手料理が食べられると思うと、ホッとするような、温かい気持ちになった。赤ん坊を連れて行ったが、皆さんとても温かく迎えてくださり、こちらも落ち着いて鑑賞することができた。(写真左が作家の三毛さん、右はオーナーの奥さんの君代さん)

画像6

画像7

画像8

 帰りの車で、ぼーっと祖先のことを考えた。三毛さんの絵を見た時、夫の祖父の墓参りに行った時のことを思い出した。墓石には、先祖の名前が代々刻まれており、夫の曽祖父になる予定だった人(という言い方が当っているかはわからない)は、戦時中に亡くなったと知る。一人っ子だったので、跡継ぎのために戦災孤児が二人(男の子と女の子)引き取られ、その男の子が、夫の曽祖父にあたるそう。つまり、曽祖父から血筋が変わったということだ。

 オープニングパーティーで、息子が皆さんから可愛がってもらっているのを見て、ふと、この子は何処から来たのだろう?と思った。この命はわたしの腹から出てきたが、わたしだけの遺伝子ではない。息子の良いも悪いも、夫や、祖先のたくさんの遺伝子が関わっている。そしてそれは、偶然できた関係性の積み重ねだ。三毛さんの絵を観た時、祖先がわたしたちの周りを回っているような気持ちになった。(わたしの目が回っていたからかもしれない)これがもし西洋絵画なら、ムリーリョの「受胎告知」を観た時の気持ちだろうか。(もちろん観たことはない)

 本個展のステートメントを書いた鈴木薫さんの言葉を借りると、「generic」の文頭の「gen」は「種の」に由来するそうだ。三毛さんの絵の前に立つと、わたしの抱えているこの新しい命の根源を思わずにはいられない。三毛さんから画材の話を聞き、動物の命が使われていると知ったからかもしれない。なんにせよ、作品の前で立ち尽くし、吸い込まれるような感覚を久しぶりに感じた。物音がするたびに過剰に反応する右耳が三半規管を刺激し、目が回る。ぐるぐる回るわたしの視界の中で、三毛さんの作品の目が揺れる。帰りは安全運転で無事帰宅した。

画像9

画像10

三毛あんり「generic portrait」

YEBISU ART LABO

11月12日(金)~12月5日(日)12:00~19:00(月火休廊、水曜は2日前迄にメール予約)

名古屋市中区錦2-5-29 エビスビルPART1 4階

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?