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令和6年司法試験刑事訴訟法 参考答案例

こんにちは、be a lawyer(BLY)のたまっち先生です。

今回は、昨日まで実施されていた令和6年司法試験の刑事訴訟法について、be a lawyerの個別指導講師(77期)が参考答案例を作成しましたので、公開させていただきます。

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では、早速、令和6年司法試験刑事訴訟法の参考答案例をみていきましょう。

【設問1】
第1 問題意識
本件鑑定書は、その収集過程で違法と疑われる手続が介在しているため、証拠能力が否定されないか。
第2 手続の違法と証拠能力
1 違法に収集された証拠を証拠排除する旨定めた明文規定はない。また、証拠物は、獲得手続に違法があってもその証拠価値に変化はないから、証拠排除には犯人不処罰という弊害が伴う。一方で、司法の廉潔性維持及び将来の違法捜査抑止の要請もあるから、(a)証拠収集手続に令状主義を没却するような重大な違法があり、(b)これを証拠として許容することが将来の違法捜査抑制の見地から不相当と認められる場合、証拠能力を否定すべきである。
2 そして、先行手続に違法があり、先行手続と直接の証拠収集手続に関連性が認められる場合には、直接の証拠収集手続に先行手続の違法性が承継されるから、上記排除法則を適用すべきである。
第3 本件所持品検査の違法性
1 まず、本件で違法と疑われるPの行為は、甲のかばんのチャックを開け中を探るという、いわゆる所持品検査にあたる行為(以下「本件所持品検査」)だから、所持品検査として適法性を検討する。
 所持品検査について明文規定はないが、任意処分たる職務質問と密接に関連し、職務質問の効果を上げる上で必要・有効な行為であるから、警察官職務執行法(以下「警職法」)2条1項に基づく職務質問に付随してこれを行うことができる。もっとも、職務質問が任意処分として予定されている以上(警職法2条3項)、その付随行為である所持品検査でも強制の処分が行えないことは明らかであり、所持品検査は、刑事訴訟法が定める捜索に至らない限度において、強制にわたらない限り許容されうる。
2 まず、職務質問を受けた甲は、覚醒剤の密売拠点と目される本件アパート201号室から出てきた人物から封筒を受け取った覚醒剤取締法違反(所持)が疑われる人物であり「何らかの犯罪を犯し…と疑うに足りる相当な理由のある者」(警職法2条1項)に該当する。そして、Pは職務質問において甲に声をかけ、走り出した甲を追いかけて前方に回り込んでいるが、甲の権利利益を強く制約するものでなく強制の処分にはあたらないし、警察比例原則(警職法1条2項参照)にも抵触せず、所持品検査の前提たる職務質問は適法である。
 次に、本件所持品検査について検討する。強制の処分とは、相手方の意思を制圧し、身体・住居・財産などの重要な権利を実質的に制限する処分をいう。本件所持品検査において、Pはいきなり甲の所持品である本件かばんのチャックを開け、その中に手を差し入れて在中物を手で探り書類を持ち上げて中の注射器を発見している。この行為は、甲の承諾なくいきなり行われているから甲の意思を制圧しているといえるし、甲の所持品の中を他人に漁られないプライバシー権という重要な権利を実質的に侵害するものと言える。したがって、本件所持品検査は捜索に至る程度の行為ないし強制の処分であり違法である。
第4 本件所持品検査と捜索手続の関連性
 違法である本件所持品検査と証拠物たる鑑定書の直接の証拠収集手続の関連性を検討する。鑑定書の直接の証拠収集手続は、捜索対象を甲の身体又は物としてなされた捜索行為(以下「本件捜索」)である。本件捜索は、本件職務質問の経緯が記載された捜査報告書①及び本件所持品検査で注射器を発見した旨記載された捜査報告書②を疎明資料として発付を得た捜索差押許可状に基づいて行われており、違法たる本件所持品検査に関連するのは捜査報告書②のみである。しかし、捜査報告書①は甲の覚醒剤取締法違反の前科及び覚醒剤常用者の特徴を有していたこと、封筒を見せるよう促すと逃げ出したことしか記載されておらず、これのみで捜索差押許可状が発付されたかは疑わしい。さらに、本件所持品検査と本件捜索は覚醒剤発見という同一の目的に向けられたものである上、本件捜索は、本件かばんの中の書類の下に隠れていた注射器という、適法な所持品検査では見つからなかったであろう物品の発見を直接に利用して書かれた捜査報告書②をもとに得られた捜索許可状のもと行われた手続であるから、違法な所持品検査の結果を直接に利用してなされた手続といえ、両手続の関連性は強いといえる。
したがって、違法たる先行手続と捜索手続の関連性があり、捜索手続に違法性の承継が認められる。
第5 排除法則の適用
1 違法の重大性(上記a)
 本件所持品検査は、中の見えないチャックのしまった本件かばんのチャックを開いて在中物を手で漁り、中の書類を持ち上げてその下を見るという、甲の所持品を見られない自由という重要な権利を強度に侵害するものである上、「任意じゃないんですか」という甲の発言からは職務質問続行を拒否しているのが明らかであったのに所持品検査を行ったこと、所持品検査を行う承諾を甲にとることなくいきなりかばんのチャックを開けたことに鑑みれば、国民の権利侵害に事前の司法審査を及ぼすという令状主義の趣旨に反した違法の程度の強い行為といえるから、本件捜索手続に承継される違法も重大である。なお、事後的に捜索差押令状を取得して捜索を行ったからといって、甲の権利への侵害が治癒されたわけでもないから、承継された違法性が低減するものではない。
2 証拠許容の不相当性(上記b)
 上記の通り権利侵害が強度であり違法の重大性が大きい上、薬物犯、特に所持罪の捜査については、所持品検査や捜索といった、重要な証拠物たる薬物を探す捜査行為が最も重要となるから、このような捜査に関して令状主義潜脱の違法を許容すれば、真実発見のためにこのような違法な所持品検査が頻発する可能性があるし、違法な所持品検査により得られた情報をもとに令状を得ての捜索で得られた証拠を許容することも同様にその前段階の違法を助長することとなる。以上からすれば、本件所持品検査の違法を承継する捜索手続により得られた覚醒剤の鑑定書を証拠として許容するのは将来の違法捜査抑止の観点から問題がある。
3 以上より、本件鑑定書は違法収集証拠として証拠排除され、証拠能力は認められない。


【設問2】
第1 捜査①について
1 捜査①が強制の処分としての「検証」に該当するかを検討する。該当する場合、捜査①は刑事訴訟法218条1項(以下法文名省略)の定める令状発付を受けていないことから、令状主義に反し違法と評価される。
(1) 検証は「強制の処分」(197条1項ただし書)であり、一定の場所、物、人の身体につき、その存在や形状、状態等を五官の作用によって認識する行為のことを指す。捜査①が「強制の処分」に該当するか検討する。
我が国の法が強制処分法定主義をとる趣旨は、国民の権利侵害を伴う行為であるにもかかわらず許容されるものを国民の代表機関たる国会に決定させることで、不当な人権侵害を防止することにある。もっとも、捜査対象者が同意している場合や権利侵害の程度が軽度な行為も全て強制処分としてはほとんどの捜査が強制の処分となり、国会の決定作業も捜査手続も煩雑となるから、「強制の処分」とは、(a)相手方の意思を制圧し、(b)身体・住居・財産などの重要な権利を実質的に制限する処分に限られると考える。
(2) 本件では、撮影対象者が捜査を認識していないから現実の意思抑圧はない。もっとも、当事者が認識しない捜査でも、合理的に推認される意思に反したといえる場合には、現実の意思制圧と同価値であるといえる。捜査①は、実施されると知れば撮影対象者に拒否されたであろうと考えられるから、これを満たす(a充足)。
また、捜査①は撮影対象者の姿態をビデオ撮影する行為であり、みだりに容貌等を撮影されない自由の制約となる。しかし、自ら入店した喫茶店内での様子を他人に見られるのは社会生活上受忍すべきものであり、撮影されない自由も重要な権利とはいえない。そして、喫茶店内での撮影は私的領域に踏み込んだものではないから、撮影対象者に重要な利益として保護すべきプライバシーの合理的な期待があるとも言えない。したがって、捜査①には重要な権利の制約がない(b不充足)。
(3) 以上より、下線部①の行為は強制の処分にあたらず、任意処分である。

(1) もっとも、任意処分であっても権利利益の制約のおそれは存在するのであるから、無制限に許容されるべきではない。ある任意処分が適法であるか否かは、捜査比例の原則(197条1項本文参照)に照らして判断される。具体的には、事案に即して、その写真撮影がなされた目的、方法、態様、他の代替手段の有無等を踏まえ、捜査機関の利益と、被撮影者が右の自由を侵害されることによって被る不利益とを、総合的に比較考量して決する。
(2) 捜査①では撮影対象者から少し離れた席から撮影対象者の首右側及び飲食の様子が約20秒間撮影されている。捜査①は、覚醒剤密売の拠点と疑われる本件アパート201号室の賃貸借契約の名義人であり覚醒剤取締法違反という重大犯罪が疑われる乙と撮影対象者との同一性を調べる目的で行われているところ、撮影対象者が本件アパート201号室から出てきた人物であり顔が乙の顔と極めて酷似していたことからすれば、同一人物と疑うにたりる合理的理由があり、目的達成の必要性は高い。そして、撮影対象者と乙との同一性確認のためには撮影対象者の首右側に蛇のタトゥーがあるかを確認する必要があったが、首元は顔や服の襟で隠れやすい場所である上、確認対象たるタトゥーは小さいため、単に写真で撮影し形状を確認するのは困難であるから、ビデオで20秒間撮影する行為が目的達成のため相当な行為といえる。さらに、喫茶店内という外部の目に晒されるのを受忍せざるを得ない場所で、特殊な方法を使うことなく撮影をしたのみであるから、法益侵害の程度は高くない。したがって、乙との同一性確認という捜査機関の利益が侵害される利益を上回り、任意処分として適法である。
3 以上より、捜査①は適法である。

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第2 捜査②について
1 捜査①と同様の基準で、捜査②が「強制の処分」に該当するか検討する。
 捜査②は、本件アパート201号室の玄関ドア及びその付近の共用通路を、本件アパート前の公道の反対側にあるビルの2階からビデオ撮影したというものである。本件アパート201号室に出入りする人物らは、このような撮影は望まないであろうから、合理的に推認される意思に反したといえ、意思制圧があるといえる(a充足)。
2 上記bを検討する。私生活上の平穏は守られるべきであるから、私的領域でのプライバシーへの期待は公道上や喫茶店にいる場合に比してより強く保障されるべきである。捜査②で撮影された本件アパート201号室の玄関ドアは、公道側に向かって設置され公道から観察できるとはいえ、同ドア横に腰高窓が設置されており、出入りする人物の方から公道から同ドアを見ている人を確認することができる場所であるから、出入りする当人が確認できない場所から観察されることを受忍せざるを得ない場所ではなく、出入りする人物らの私的領域といえる。さらに、捜査②での撮影では同ドアの内側の玄関や廊下も映り込んでいるが、これらは公道からは見えない場所であると思われ、玄関ドアの外側以上に、私的領域性が強い。したがって捜査②は私的領域でのプライバシーへの期待を侵害するものといえる。さらに、捜査②は、毎日24時間2ヶ月間という長期間にわたって同場所をビデオ撮影したというものであり、侵害態様も重大である。したがって、捜査②は、本件アパート201号室に出入りする人物らの私的領域におけるプライバシーへの合理的な期待という重要な権利を実質的に制約している(b充足)。
3 以上より、捜査②は「強制の処分」たる検証にあたるにもかかわらず218条1項の定める令状発付を受けていないから、違法である。


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