【フランス国内巡礼路①】~フランス語×英語×オランダ語の夕食 マダム・ステラの茶色い家 〈前編〉
2023年7月15日にフランス・パリをスタートした私のカミーノ・デ・サンティアゴは、パリ→オルレアン→トゥール→ポワティエと進み21日目にフランス中部の小さな村コージュにつきました。
8月の上旬、暑さもピークの毎日でした。サンティアゴ・デ・コンポステラのガイドブックに掲載されている部屋貸し(民泊)と表示されたその家の名前は「茶色い家」。
4月に宿泊予約を依頼するメールをしたときから、宿主さんはずいぶんきちんした人だなあと思っていました。
食事を出すけれどうちはレストランではないから家族と同じ食事であることを理解しておいてほしい、食べ物のアレルギーはないか、買い物する場所はない、できればフランス語を勉強してきてほしい、という内容です。
ようやくたどりついた「茶色い家」は、広い庭にパラソルとタープが出ていました。
門の扉をあけて、ハローと声をかけると、若い男性が出てきました。彼は英語。マダム・ステラ、母は5時に戻るからと、母屋とは違う玄関から部屋に案内されました。部屋は20畳ほどあり、ダブルベッドにテレビや暖炉もある、大きな本棚にはたくさん本が並んでいる。サンティアゴ・デ・コンポステラの写真集もあったから、巡礼者が泊まることがあるのでしょう。
家族と共用のシャワールームを使ってシャワーをあびて、洗濯をして部屋の中に干しました。ここの宿主さん、フランス語覚えてきて言ってたなあ。英語を話せない人なのだろうか。手持ちの自作のフランス語の単語帳を出してみたけど、たぶん挨拶しかできないなあ。
5時すぎて、ここの宿主のマダム・ステラが帰ってきました。ステラは英語ペラペラ。英語、すごくできるじゃありませんか!よかった。さきほど部屋に案内してくれた男性が、晩御飯だよーと声をかけてくれました。
この彼は耳がとてもよい。
「日本語を話せ、ウエルカムはどういうの?」
「ようこそいらっしゃいました、だよ」
一度で上手に聞き取って、日本語で返してきます。
「サンキューは?」
「ありがとう。」
すぐにマネをして返してくる。うまいうまい。
「ノーサンキューは?」
これは難しいな。「またの機会に、かな。」
意味を伝えると、解せないようす。翻訳アプリで「日本人は、拒否をはっきり言わない」を訳して渡すと深くうなずいていました。
別な若い男性と、金髪の長い女性も庭にでてきました。
年配のヒゲの男性も出てきて、マダム・ステラの夫でレイノルド。ムッシュ・レイノルドは優しそうなお父さん。
部屋に案内してくれたのが弟でジョエルとフランシ人のフィアンセ。ジョエルは英語がペラペラ。お兄さんがダン、ダンの隣の長い金髪の女性は彼の奥さんのオランダ人でアンヌ。ムッシュ・レイノルドはフランス語だけ。私が片言で言った英語をジョエルがフランス語でレイノルドに伝えてくれます。
つまり、母語がオランダ語とフランス語、共有語として英語がある食卓です。
まず、お父さんのレイノルドが大きなメロンを切りわけます。
弟のジョエルが、「うちはね、こういうディナーの前にメロンを食べるのが習慣です」と説明してくれました。
「伝統なのかな、理由わかんないけどいつもそう。うちは、オリジンがオランダにもあるから、だからかな。」
オランダでは夕食にまずメロンを食べるのか??
大きなメロンでまあまあおなかいっぱいになりました。
次は肉だよ、焼き加減はどうしたいかムッシュがみんなに確認します。
私はみなさんといっしょで、と中途半端な返事をしたけれど、ムッシュは優しく、うんうんとうなずいて肉を焼きに家に入っていきました。その間はマダムが席についておしゃべりタイムです。
マダム・ステラは、オランダでフランス語と英語の教師だったそうで、いかにも先生らしかったテキパキした身のこなしで、家族に目配りをしていきます。ムッシュが焼けたお肉を配ります。ジョエルはビーガンということで、ステラが肉のかわりに目玉焼きがたくさん載った皿を渡しました。
ジョエルが、「これ、この近くの牛だよ。」
私はここまで歩いてくるとき牛をたくさん見ました。
「そう、その一頭だね」と笑います。
ここから先の巡礼路でも若い世代でビーガン、肉を食べないライフスタイルの若者にたくさんいました。ビーガンやベジタリアンには「動物性の食事をさける」の定義についていろいろあるようですが、それをアプリのやり取りで理解するのは無理。
肉が終わって、次の料理はインゲン豆と野菜の炒め煮似のような料理。直径45センチくらいの大鍋にど~んとで出ました。ダンやジョエルはインゲン豆もモリモリに食べていきます。私にはいい加減でやめとけという、豆をそんなに食べなくていいから。
次、まだ次がある!?
お楽しみの時間のチーズ、フロマージュの時間です。硬いチーズ、やわらかいチーズ、白っぽいチーズはヤギ、皮があるチーズ、カビがあるチーズ、5種類が塊のまま出てきました。ムッシュがほ~らどんどん食え~と出すとジョエルが好きなチーズを爆食い。マダム・ステラがあああもう食べ過ぎよ、と注意するよくある家族の風景が展開されました。私も全部をちょっとずついただきます。
フランスではチーズというのは家庭ではこんな風に食べるものなのか。このひと塊を日本で専門店やデパートで買ったらひとつ3000円はするでしょう。
しかし、食事はここで終わりではない。
家の中の大きなダイニングテーブルに場所を移して、今度はお茶をいただきます。ムッシュが大きなパイ皿を持ってきました。ピザのLLのサイズくらいあります。ムッシュが作って焼いたというアプリコットのパイだそうです。
兄弟二人はいつしか真剣モードの話し合いが始まってきて、そうなると二人のオリジンであるというオランダ語のみになって夜が更けました。それにしてもあの豆を煮たサイズの鍋やコンロや、このサイズのパイを家で焼けるオーブンを持っているのがすごい。フランスの家庭料理の本気がすごい。
この家には連泊しました。つづきは来週更新【フランス国内巡礼路②】。
私のこの電子書籍ではフランス巡礼路での巡礼者の家への予約の方法、宿泊の段取りを紹介しています。この家でのできごとは第2巻に該当しますが、このエピソードは含まれていません。
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