日常は小さな奇跡がいっぱい
秋の気配を楽しみながらも、すでにクリスマス商戦が始まろうとしている花業界です。
そんな8月の終わりに、突然緊急入院したあの日のことは忘れられない。
もう10数年前の事ですが、夜中にキリキリとお腹が痛み出して、喉がカラカラなんだけどベッドから起き出せない。脂汗がタラタラ・・・助けて。
虫垂炎でそのまま入院生活へ。固形物は一切食べられず、点滴の針が腕に刺さったままの病人になっていました。
それでも、「ここから出してください!仕事に行かなければ!」と医師や看護師の方々を困らせてしまいました。
虫垂炎以前に、優越欲求という毒牙にかかっていました。
周りから見たら、私はとても恵まれている様に見えていたでしょう。好きな仕事をして、やりたい様に生きている風だったから。
あの日を境に、やりたい事ではなく、やりたくない事を明確にしてやらないという引き算で生きる様になりました。
やりたい事って、優越感を得るためのものである場合が多いから。そんな毒針を刺して生きていたっていいことなんかありません。
自我欲求にまみれた仕事ほど醜いものはありません。
こんな過去の痛い話なんてもう忘れ去りたいけれど、小さな毒針が刺さったまま生きている人を見かけると、なんとか抜いてやりたいと思ってしまいます。
本当の幸せって、心地良く、もっと軽やかで清々しいものです。
たった一輪の花にも感動できる鋭敏な美意識をもつものです。
1週間の入院生活は点滴で栄養をとるという人工人間的なものでした。
やっと食べ物を口にできたのは、退院の前日。
1週間何も口にしていなかったのに、いきなりざる蕎麦が出てきて面食らったけれど、醤油味のしょっぱい麺つゆに感動していました。
涙が出るほど幸せを噛み締めて、「ここへは絶対に戻らない」と自分に誓ったのでした。
私の人生観を変えたのは、間違いなくこの1杯の麺つゆです。人生って面白いですね、そんな小さな縁が何かを変えてしまいます。
日常に溢れる小さな小さなご縁を大切にしていたら、知らないうちに毒針は抜けて行きます。
力まずとも、自然と。