ワイルドなハーブカルチャーを日本に。夫婦で富士山の麓に移住しハーブを育てる HERB STAND
こんにちは、TSUMUGI編集部のMamiです。
毎月コミュニティのメンバーに、お届けしているTSUMUGIの「暮らしのキット」。日常の中で「自然体に還るひととき」を過ごしてもらえるようなプロダクトをお送りしています。
11月のキットは、TSUMUGIのパートナーである、HERB STANDさんのハーブティーとハーブミックス。HERB STANDを運営する、平野優太さん、真菜実さんご夫婦は、4年前に山梨県の富士山の麓のまち・富士吉田に二人で移住し、ハーブ農園やハーブを使った製品づくりをしています。
ご夫婦で自然の中に移住してハーブを仕事にしているなんて、芯があって本当に素敵なだなあと思っていたら、年齢を聞いてとっても驚きました。28歳!私と同い年だった……。
ライフステージを二周りくらい先にいっているようなお二人に感服すると同時に、縁もゆかりもない富士吉田に24歳という若さで移住しようと決意できた理由や、どうしてハーブを仕事にしようと決めたのかなど、むくむくと疑問が。
ずっと東京にいるのかなあ、とか、将来どんな生活をしたいんだろうか、と悩んでいた私にとって、住む場所を決めて自分たちの道を歩んでいるお二人が、とっても眩しかったんです。
五感をひらく力強いハーブたち
合宿のために訪れた山梨で平野優太さんにお会いしたのは、9月初めのこと。(そのときはこのnoteでHERB STANDさんをご紹介するなんてことも決まっておらず、偶然のご縁でした)まだまだ蒸し暑い東京と比べて、標高の高い富士吉田には、もう秋の風が吹いていました。
待ち合わせの「道の駅」に、ハーブが入った大きな籠を抱えて現れた優太さんは、ナチュラルに“地元の農家さん”という様相。合宿の食事に使うハーブをお持ちくださるということで、事前情報も聞かずに出会った私は、「山梨でこんなにいろんなハーブを育てているなんてかっこいい農家さんだなあ、三代目とかなのかなあ」と感動していたくらいで、優太さんが数年前に移住してここに住み始めたこと、そして同い年だということを聞いたときは、3秒くらい理解ができなかった。そのくらい、とても自然体だったんです。
籠にわさっといれて持ってきてくださったのは、その日の料理やハーブティーに使わせていただくハーブたち。採れたてのフレッシュハーブは、どれも生き生きとした生命力があって、籠をのぞくと、新鮮な緑色の香りが、ふんわっと鼻を通り肺に入ってくる。
「これは、ホーリーバジル。スーパーで見かけるバジルよりは、甘い香りがします。これは、レモンの香りがするバーベナです。お茶にするととってもいい香りですよ」
おそらく20種類はあったんじゃないかと思うほどたくさんの種類のハーブを、平野さんは、ひとつひとつ香りを嗅がせてくれたり、葉の触り心地を確かめたりしながら、説明してくれます。
なんだろう、普段スーパーで見かけたり、鉢植えで見かけるような、小さくて儚いハーブのイメージとは全く違う。香りの粒がぷちぷちと弾けるように漂ってきて、みずみずしく力強いエネルギーを感じる。
その日の夜、サラダに散らしたディルやミント、ピザに乗せたバジルやタイム、カモミールやレモングラスにお湯を注いでつくるフレッシュハーブティーなど、HERB STANDのハーブたちが食卓の至るところで、華を添えてくれていました。
口に入ると爽やかで個性ある味わいが、食材たちを引き立てていて、「この料理に入ってるのは何のハーブ?」「このミントとチーズが合うね」なんてかたちで自然と会話も弾みます。そんな力のあるハーブたちに、ぱあっと感覚をひらかされているような気分でした。
暮らしに根付くハーブ文化
優太さんは、お母さんが自然療法やアーユルヴェーダに詳しかった影響で、小さい頃から生活の中にハーブがありました。とはいえ、大きくなってからは特に自分からハーブを買うことはなく、20歳のときに真菜実さんと出会ったことをきっかけに、健康でいたい、暮らしを豊かにしたいという思いが芽生え、体調を整えるために自然と料理に使ったりハーブティーを飲むように。
その後、漠然と夫婦で「植物に関わる仕事がしたいね」と考えながらも、他の仕事についてモヤモヤしていたある時。二人で海外を旅しながら、これからどんな場所でどんな暮らしがしたいか見つけよう、とオーストラリアとニュージーランドに渡航を決めます。そうして、一年かけて、オーストラリアやニュージーランドの農家さんにファームステイしながら旅をする中で、ある農家さんに出会います。
「ニュージーランドでは、ハーブが暮らしに根付いていました。特にカルチャーショックだったのが、猟師もしていたステイ先の農家のおじさん。いつも鹿や猪をかついで帰ってくるなり、庭に生えているハーブを、ばさっと刈ってフレッシュハーブティーを淹れてくれていたんです。
どうしても繊細なイメージだったハーブが、ワイルドでカジュアルなものとして扱われていて、かっこいいなあって」
日本でも、もっとワイルドでカジュアルなハーブの可能性を広げたい。そう決意して、二人は帰国するなり、いろんなご縁が重なって自然豊かな富士吉田に移住します。はじめは、ミントを使ったモヒートなどを出す小さなドリンクスタンドからスタート。次第にOEMでハーブティーなどの加工品をつくるようになり、最終的には自家栽培もはじめることに。
「富士吉田にしたのは、水がきれいだし自然豊かで都心にも出ようと思えば車ですぐだから、ということくらいの単純な理由でした。農家としてちゃんと畑を耕そうとも考えてはいなかったんですが、自治体でも管理しきれない“休耕農地”がたくさんあったんです。使ってもらえないかっていう相談が結構あって、仲間と一緒に耕して広げていきました。ハーブは、他の農作物と比べても強く、環境さえ適していれば何もしなくても元気に育ってくれるんですよ」
簡単そうに言うけれど、いまや600坪の土地で50種類以上のハーブを育てているというからすごい。いま注目しているハーブを聞くと、楽しそうに日本古来の薬草のことを話してくれました。
「あとから知ったのですが、富士吉田って、江戸時代に都に献上する薬草の採取地だったらしいんです。だから地元のおばあちゃんとかが、自生する山椒やクロモジを普通に料理や生活の中で使っていたり。
毎年春になると、おばあちゃんたちが、山で取れた山椒の新芽を塩であえておにぎりをつくってくれるんですが、それがめちゃくちゃおいしくて。ある富士吉田出身のシェフが、そのおにぎりからインスピレーションをうけた山椒のリゾットを都内で出してるんだそうです。なんかそうやって、土地の歴史や文化が繋がっていくのって、本当におもしろいなって」
優太さんのお母さんが家庭でハーブを使っていたことも、ニュージーランドに行ったことも、江戸時代の薬草採取地だった富士吉田に移り住んだことも、振り返ったら全部伏線になっていて、でもすべて偶然だったと。
「植物に関わる仕事がしたい」というぼんやりした希望を実現するために、「ハーブ?そんなんじゃあ食っていけないよ」とか「若いんだからちゃんとした仕事しなさい」などと周りから言われながらも、もがき続けた結果だったのです。
いろんな世界観があっていい
今回暮らしのキットとしてもお送りしている、HERB STANDのハーブティーは、ドライとは思えないほどの新鮮な香りと豊かな味わいで、本当に身体に染み渡る美味しさ。寒い季節に合わせて、カモミールやタイムなど体を温めてくれるハーブをいっぱいいれてくれました。二煎目、三煎目で出てくるハーブの味も変化するため、味わいのうつろいを楽しみながら何度も淹れられるのも嬉しいところ。
ハーブミックスには、バジル、ローズマリー、タイム、オレガノなど、料理に合うハーブたちがたっぷり。私は、野菜と鶏にふりかけて香草焼きにしたり、スープにいれたり、いろんな料理に香りを加えています。パウダーではなく、粗く粉砕されているので、ひとつひとつのハーブたちが、料理の中で見え隠れするのも楽しい。
TSUMUGIが、これからHERB STANDさんと一緒に考えているのは、都内の建物の屋上でハーブガーデンをつくること。自発的にハーブを使ってもらえるような「コミュニティガーデン」のような場所をつくろうとしています。
「都会には都会のハーブの育て方があるし、文化もあります。海外では町中でも野草としてハーブが自生していたり、ヒップホップなお兄さんやパンクなお姉さんがハーブティーを飲んでいたり。いろんなコーヒースタンドがあるように、ハーブにもいろんな世界観があっていいと思うんですね。いまは、良いハーブは値段も高かったりしてどうしても敷居が高い。もっといろんな人が関わっていくことで、より楽しみやすいものになっていってほしいと思っています」
HERB STANDの畑にも、全国からシェフやパティシエがたくさん遊びに来るそう。そこでハーブの使い方や、レシピのアイデアをお互いに情報交換することで、それぞれ思いつかないようなアイデアが生まれるのがとても楽しいと話します。
山梨でいただいたワイルドなフレッシュハーブたち。
お家に届いたエネルギッシュな香りのハーブティー。
平野さん夫婦が語るハーブカルチャーの可能性。
それらに触れたことで、私自身抱いていたハーブへのイメージも、どんどん変わっていきました。もっといろんなハーブを知りたいし、今までにない使い方をしてみたい。
これからはじまる、コミュニティガーデンで、どんな新しい発見があるのか、楽しみでなりません。
▼HERB STAND 公式Instagram
https://www.instagram.com/herbstand/
今回取材させていただいたHERB STANDさんをはじめ、TSUMUGIでは、循環や「善い暮らし」に関する知見を持っている、食の生産者の方々をPartnersとしてお迎えしています。
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photo by Kazuki Kusaka、HERB STAND
special thanks Misa Murata