猫のトロロ、ワガママになった………わけではなかった。
我が家の猫トロロには、重大な任務があるのでした。
それは、認知症の夫のお相手をすること。
それから、認知症の夫と暮らす私がキレないように、見張ることである。
が、このトロロが予想外に手が掛かる。
私がかつて実家で一緒に暮らしていた猫たちは、
きょうだいで、自分たちの世界を作っていた。
一緒に遊び、一緒に昼寝する。
トロロは一人っ子である。
私と一緒に寝て、私と遊ぶ。
しかも彼は活発な性格で、家の中を毎日、馬のように走るのだ。
ただ走るのではない。
私に「追いかけてきて!」と、せがむ。
仕方ないので、私は「がおお!」と言って、
追いかけて差し上げるのだ。
彼は完全なドライフード派で、毎日、同じドライフードを食べていた。
「よく飽きないなあ」
と、思っていたら、唐突に飽きた。
仕方ないので、数種類のドライフードをご用意している。
しかし、トロロがいちばん食べたいのは、おやつなのだ。
おやつの棚の前に私を誘導し、
スリスリし、それからキチンと座って、
澄んだ目で私を見上げる。
「おやつが欲しいんですけど?」
おやつじゃなくて、ゴハンを食べなさい。
ああ、甘やかしちゃったかしら?
そう思って、ふと、気がついた。
猫のトロロにとっては、「ゴハン」と「おやつ」の区別なんてない。
どちらも食べ物なのだ。
だから、美味しいほうを食べたいのは、当然であって、
決してワガママではない。
こういう事って、実は人間相手でもあるのかもしれない。
ただ、人間同士だと、それを認識するのが難しい。
相手との価値観の違いに思い至らず、
ワガママや身勝手に思えてしまう、という場面が、
気づかないだけで、今までだってあったかもしれない。
くわばらくわばら。