「引き付け」ドリルの重要性を理解する
昨日、ランニングの足の動きの全体像を書いたので、今日からは、その一つ一つの動きを説明していきます。まずは引き付けから。
「引き付け」ドリル
「引き付け」のドリルのやり方については、前に説明した通りです。要するに膝を深く曲げて踵でお尻をたたくようにする、という事でしたね。
これについて、特に補足する事はありませんが、では、どうしてこういう動きが速く走る上で有効なのでしょうか?
長いものほど動かしにくい
一般に棒でもバットでも、長いものほど振り回すのに力が要ります。短いと、それほど力を入れなくても楽に振り回す事ができます。また、振り子も長いとゆっくり動きますが、短いと速く動きます。
つまり、長いものほど、動かすのに力が必要で、ゆっくりしか動かせない。逆に短いと楽に素早く動かす事ができます。だから、長いものを楽に素早く動かすには、何らかの方法で短くしてあげるとやりやすくなります。
この事から分かる通り、「引き付け」の動きは、長い脚を短く折りたたんで振り回しやすくする役割を果たしています。接地している時は、脚をなるべく長く使いたいので膝を伸ばし脚を長くしています。そして、足が地面から離れた瞬間、素早く引き付けて脚を折りたたむ事で、脚を楽に速く動かす事ができるようになるのです。
脚をなるべく速く前に送ってあげる必要がある
脚を後ろに持っていく場面は、接地しているので膝を伸ばし脚を長くしています。逆に脚を前にもっていく時は、地面から離れているので、引き付けによって足を折りたたんで短くする事が可能です。
(そうせずに脚をすり足のように地面すれすれで前にもっていってるランナーも数多くいます。実は非効率なんですけどね、その走り方は。)
つまり、「引き付け」によって脚が振り回しやすくなる事の効果は、脚を前にもっていく場面で働きます。それがなぜ、効果的なのでしょうか?
これまで何度も、「着地する時は足を戻しながら着地するのが良い」と書いてきました。それをするためには、足を素早く前に送り、接地のために足を降ろしていく時に足が完全に前にないと、「戻しながら着地」する動きにはできないのです。
足が前に送られてない状態で接地すると、足を前に動かしながら接地する事になってしまいます。そうすると、「前からやってくる地面」と足が衝突しながら着地する事になり、ブレーキになったり身体へのダメージになったり、ズッという地面をする音になったりします。速度がゆっくりの時は、その影響は小さいのですが、スピードが上がれば上がるほど、影響は大きくなります。
シザーズが上手くできるようになる
次の稿で紹介する予定のシザーズ、これは、なかなか習得が難しい技術なのですが、「引き付け」がちゃんとできていると、やりやすくなります。
シザーズは、接地する時に遊脚の膝が軸足を追い越す動きなのですが、この時に引き付けができていると、脚を前に送りやすいのでシザーズが楽になるのです。
つまり、引き付けは、シザーズをよりよくやるために必要だ、という事でもあります。
ピッチが上げられる
ピッチというのは、一分間の歩数の事で、走るリズム・テンポの事になります。ピッチを上げるには、脚を素早く動かす必要があります。もちろんピッチは別の要素で決まる部分が大きいのですが(かなり先ですが、追って解説します)、脚の動きがついていかないと速いピッチでは走れないのです。
なので、ハイピッチの人は、脚の動きがどうしても小さくなりがちなのですが、引き付けができると、ある程度大きく動かしても素早く脚を動かせます。つまり円運動で動かせる、という事ですね。
円運動で動かすためには、足を前にもっていく場面で足をある程度高い所を通過させる必要があります。そのためには膝を深く曲げて足を折りたたむ必要があるのです。
つまり、円運動で動かすために、引き付けが必要になる、という事です。
(あと、脚を短くした方が短い周期で動かす事ができる、というのもあります。)
という事で、「引き付け」の効能が、理解できましたでしょうか。是非とも前もものストレッチをたくさんやって、引き付けのドリルをたっぷり行い、無意識でも踵がお尻近くまで上がるようにして、ランニングエコノミーを向上させてもらいたいな、と思います。