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血湧き肉躍る戦いだった全日本大学駅伝の感想と箱根駅伝の展望

全日本大学駅伝も3強のアツい戦い、面白かったですね。
見どころ満載だった大会、ざっと振り返ってみましょう。


区間エントリー時点でのレース展望

全日本大学駅伝の特徴

前提として、以前にも書いたのですが、全日本大学駅伝とはどういうレースか、を簡単にまとめます。

  • 距離も区間数も出雲駅伝と箱根駅伝の中間の駅伝である。

  • 前半の区間は短く、区間が進むにつれ少しずつ区間距離が長くなる。

  • エース力と選手層のバランスが問われる駅伝である。

詳細な説明は以前の記事を読んで頂くとして、どこに強い選手を持っていくか非常に難しいゲーム性の強い駅伝だ、という事があります。(正直、箱根以上に面白いと思う。)
その上で、特に重要とされるのが、レースの流れを決めてしまう前半の2区3区と、距離が長い7区8区です。つまり、「エース・準エース級が4人必要」というレースになっていて、その課題がそれぞれの大学にとって結構大変だというのがありました。

3強(國學・青学・駒澤)の事情

出雲を勝った國學院は、出雲エース区間3区を辻原選手が好走した事が大きく、エース区間を任せられる選手が、平林・青木・上原・辻原と4人揃っていて、一番悩みのない大学でした。また、出雲では繋ぎ区間の4区・5区で連続区間賞で先頭に立ったように、その次の選手層も充実していて、優勝候補筆頭と考えられました。
箱根を勝った青学は、駅伝シーズン前は今シーズン3冠の本命視されていました。しかし出雲駅伝では、エース区間では良かったものの繋ぎ区間に課題を残しました。なので、全日本ではエース区間を任す一人をどうするか、という課題がありました。
前年度覇者の駒澤は、駅伝シーズン前に大エースの佐藤圭汰選手が怪我で全日本までは出場できないとなり、苦しいとみられていました。そんな中、出雲駅伝では最後まで優勝を争っての2位と下馬評を覆す結果を残しました。
エース格としては、篠原・山川の2選手は強いのですが、それ以外を誰に任すかというのが課題でした。出雲では1区をルーキーの桑田選手に託し、まずまずの結果を残しました。全日本に向けては後一枠を誰で埋めるか、が課題でした。

実際のオーダー

当日変更も含めた実際のオーダーです。
國學は大エース平林選手を7区に、2, 3, 8区はそれぞれ青木・辻原・上原3選手に予想通り託してきました。怪我明けの実力者・山本選手が繋ぎ区間の6区に起用され、どう言う走りをするかも注目でした。
青学は少し捻ってきて、大エース黒田選手を繋ぎ区間の4区に起用し、ここで大差をつける作戦に出ました。エース区間は、2区鶴川選手、7区太田選手は予想通り、残りは、3区はルーキーの折田選手、8区は箱根8区区間賞だった塩出選手に託します。
駒澤は2区をルーキー桑田選手に、3区を駅伝経験豊富な3年伊藤選手にしました。2大エースの篠原・山川両選手は7、8区に入れ、後半勝負のオーダーでした。

それ以外の大学を見ると、創価大学がこれまで繋ぎ区間で爆発的な走りをしてきた吉田響選手を2区に、東国大も留学生ベット選手を2区に入れてきました。他にも早稲田・山口選手、帝京・山中選手など、錚々たるメンバーが2区に集結しました。特に吉田響選手とベット選手が来た事で2区がハイペース必至となり、日本選手権4位でハイペースに付いていくのが上手い鶴川選手にとって有利そうな展開が予想されました。逆に、駒沢のルーキー桑田選手がどこまでついていけるか心配、と言う事前予想でした。

レース結果と各校へのコメント

レース結果の詳細はリンク先の通り、優勝は國學院大学で、出雲に続き2冠達成です。2位は終盤追い上げた駒澤大学で、3位は前半独走した青山大学、以下、創価、早稲田、城西、立教、帝京までがシード権でした。

優勝:國學院大学

出雲に続きほぼノーミスでの継走。エース区間も順調で、大変な戦いとなった2区を青木選手が大怪我なく乗り切り、3区辻原選手が区間3位で追撃開始。7区平林選手は高レベルの争いをほぼ互角で乗り切り、8区上原選手がアンカー対決に勝ち、山川選手の追い上げも計算に入れて堅実にゴールに襷を運びました。
勝因は出雲同様、繋ぎ区間の5区・6区を連続区間賞で追い上げた事。青学との差を詰めただけでなく、駒澤との差も広げた事が終盤の逃げ切りの貯金として大きかったです。
特に、山本選手の復調は大きい。1年の箱根3区で好走して以降、全日本2区でごぼう抜きをしたり、エース格の一人として活躍してきましたが、怪我もあり調子と落としていました。それで繋ぎの6区に周ったのですが、今回、差し込みもある中押し切り区間新と格の違いを見せつけました。これは復調する上で精神的にも大きいでしょう。流れが悪いと精神的にも病む事は多いでしょうし、区間新の走りは悪い流れを断ち切る良いきっかけとなるはずです。
山本選手が復調すると、國學のエース格の層がさらに厚くなる事になります。
ここで優勝した事で、箱根は本命として扱われる事になるでしょう。

2位:駒澤大学

2区終了時で17位! そこから少しずつ追い上げての2位ですから力はあります。
特に大きかったのは3区! 初のエース区間で遮二無二追いかけ、力のある選手達に付かれるのも構わずごぼう抜きし一人でシード権内まで押し上げました。國學・青学との差も大きく詰め、終盤の反撃の余地を作ったと思います。区間賞こそ城西・キムタイ選手に譲ったものの、これまでの殻を破る走りだったと思います。
あと、初駅伝の4〜6区がいずれも区間上位で走ったのも良かった。特に谷中選手は、黒田選手とは差がつきましたが、城西エース斎藤選手とは僅差の区間3位。ルーキーでこの走りは先々楽しみです。
7区、8区の両エースは想像通り強かった。特にアンカー山川選手の追い上げは圧巻の一言! 2分半以上前にいた青学を追い抜いて2位に入るまで来るとは想像できなかったです。
ただ、想像以上でしたが、大きく想定を超えてきた訳ではないです。

前日会見で「山川は國學・平林選手にも負けない」と藤田監督がコメントした事に対し前田監督が「藤田監督は平林を過小評価している」と返した事に対してのコメントでした。
実際、山川は駅伝のたびに評価を上げてきた選手で、去年の全日本で2位以下に大差をつけての区間賞、今年の出雲3区も青学・黒田選手に区間タイムで勝っているなど、成長著しい選手でした。また登りや暑さが得意など、全日本8区への適正も考えれば、藤田監督のコメントも根拠のないものとは思えなかったです。
実際の走りで、藤田監督の発言がブラフじゃなかったことを示したと思います。

3位:青山学院大学

青学は2区終了時には願ってもない展開だったでしょう。國學と1分近い差、駒澤には2分半近い差を空け、3区で並走していた創価を引き離し独走状態。
ただ、結果論ですが、黒田選手4区投入の奇策はどうだったか、と思います。
どこで使っても素晴らしい走りをするエース黒田選手、距離が長くない4区でも國學を50秒以上突き放しました。
ただ、ここで稼いだ50秒と、8区を走っていて稼げたタイム、どちらが大きかったか。長い距離の方がタイムはより稼げたはずで、黒田選手なら8区でも57分台で走っていたでしょう。そう言う意味では、ちょっと策に溺れた感がなくもないです。
ただ、それだけ国学の中盤を脅威に感じてたのかもしれません。それで先頭効果で差を詰めさせないようにしたかったのでしょう。実際、青学の5区6区は区間4位・区間2位と、それほど悪かった訳ではありません。それより、その想定を上回ってきた國學の両選手が素晴らしかったと言うべきでしょう。
ただ、青学としては、エースに続く選手が課題であるとは言えるでしょう。

それでも、相変わらずの「太田劇場」は面白かった。平林選手を幻惑・翻弄していたでしょう。たった4秒差なのでまずはさっさと追いつこうとペースを上げた相手よりハイペースで入って追いつかせず、相手に「アレ?」と思わせてリズムを崩す。リズムを取り戻して追いついてきた際に少し後ろで休み、ロングスパートが持ち味の平林選手より先に仕掛けて意表を付き、何度も先手先手で仕掛けて精神的に優位に立って勝ち切った。本当にレース巧者です。

4位:創価大学

エース区間を走る吉田響選手を見たかった。これまで何度も繋ぎ区間で爆走していて、エース区間で他校のエース達と争ったらどうなるかをずっと見たいと思っていました。今回、その願いがかないました。
実際、今回の走りは素晴らしかったです。錚々たるメンツを引き連れて集団を引っ張り、一人一人篩い落としていきました。特に東国ベット選手を篩い落としたのは凄いです。ラスト勝負こそ鶴川選手に遅れをとりましたが、堂々たる走りだったでしょう。
あとは、8区野澤選手の57分台での区間2位は大収穫でしょう。これまで3強と戦える選手は吉田響選手とムチーニ選手くらいでしたが、もう一人出てきたと言えます。ただムチーニ選手はまだ本調子とは言えなさそうです。

5位:早稲田大学

早稲田は「勿体無いレースだった」と言えそうです。2区山口選手が冷静に走り5位と好ポジションで繋いだのですが、エース区間3区、さすがに藤本選手には荷が重かったか。ここで大きく順位を落としてしまいます。やっぱりここは伊藤選手などのエース格の選手を起用していれば、もう少し3強と近い位置でレースができたのでは、と悔やまれます。
ただ、長屋選手がエース区間7区で区間5位と結果を残したのは良かった。工藤選手もエース区間で好走が続いていて、山口選手の合わせて3人でエース区間を担えると思う。あとは伊藤選手、今回出ていない石塚選手の復調待ちでしょうか。

6位:城西大学

収穫と課題がくっきり分かれる結果だったかと。
キムタイ、斎藤両エースはちゃんと実力通りの走りをみせ、平林選手もエース区間8区5位とまとめました。また「怪獣大戦争」だった2区を柴田選手が10位と耐え抜いたのも収穫。
一方、林選手、桜井選手といった経験のある上級生がイマイチで、久保出選手もエース区間は荷が重い感じです。3強に近づくには、この辺りの選手がもう一段上の走りが必要になるでしょう。
あと、個人的な意見なんですが、区間の組み方はこれで良いのでしょうか。例えばキムタイ・斎藤両エースを2区3区に起用すれば、もう少し前でレースができたように思えます。キムタイ選手なら今回の2区でも先頭争いができたでしょうし、斉藤選手ならそこから先頭に立って差をつける事もできたでしょう。
まぁでも安定はしていますね。今シーズンのポジションとしては、この辺りと言う事でしょうか。

7位:立教大学

ちょっとびっくりです。2区の「怪獣大戦争」から完全に立ち遅れ、駒澤の伊藤のように大きくごぼう抜きする選手もいなかったのに、いつの間にシード争いに加わってきて、シードをかっさらっていきました。
レース結果を見ると、4区稲塚選手の区間7位でリズムを取り戻したようです。稲塚選手は関東インカレハーフで5位入賞している実力者ですが、予選会はコンディション不良で回避していました。ただ、ここで復帰して、予選会の疲れから低迷するチームのリズムを取り戻します。
そして、6区山口選手が区間5位でシードラインとの差を詰め、7区エース馬場選手の快走で一気にシード内に入ってきました。馬場選手は予選会でもチームトップ、日本人3位と好調を維持しています。予選会の疲れも見せずにその力を出し切りました。
しかし、高林監督就任後、立教は悉く結果を出し続けています。今回はツキもあったと思いますが、ツキを味方につけるのも名将となるのに必要なように思えます。数年後には、駒澤や國學と「大八木弟子対決」の優勝争いをしている可能性はかなりあると思います。

8位:帝京大学

帝京のシードは十分あると思っていました。まず出雲も8位とそこそこ走っています。(ちなみに今回、IVY選抜を除いた順位は6位まで出雲と全日本で一致しています。そして立教が代わりに間に入ってきただけで帝京の8位も一致。これだけ出雲と全日本が一致する事は珍しいです。)
また、山中・福田・小林選手と実力ある選手が3人揃っていて、それがしっかりエース区間に入っています。3区は出雲2区で好走した尾崎選手が入り、実力者・柴戸選手が5区で復帰と、中盤も戦える選手が揃っていたからです。
レースでは、山中選手は素晴らしい走りで、終盤まで吉田響選手らにくらいつき、ベット選手より後まで集団にくらいつきます。最後ベット選手にかわされますが4位と大健闘。絶好の位置で後続に繋げます。
その後、流石に3区は荷が重かった尾崎選手以降、ずるずるとポジションを下げていきますが、6区楠岡選手が区間4位の好走で流れを変え、再びシード争いに復帰、福田・小林選手がしっかり実力を発揮してシードを確保しました。

9位以下の大学について

ここまででかなり長くなっていますので、シードを逃した大学についてはまとめてコメントします。
シードを逃した大学にも、健闘した大学と誤算続きだった大学があったと思います。特に、箱根駅伝のシード権をもち2週間前の予選会に出場する必要がなかった大東文化大学と東洋大学は、この大会に向けて調整できていた筈で、この結果は大きな誤算だったと思います。
また、3強に次ぐ戦力を持ち、全日本大学駅伝のシード権を持っていた中央大学は、この駅伝にむけて箱根予選会にエースをはじめ何人かの主力選手を温存していました。それらの選手たちをこの駅伝で起用したのですが、上手くいきませんでした。
一方、箱根予選会をしっかり戦った大学では、シード権を獲得した立教以外にも、東国・日体は最後までシード権を争う事ができました。予選会の疲れを抱えながらも、ここまでの戦いができた事は、箱根に向けて手応えを得たと言えるでしょう。

全日本大学駅伝の結果を受けての箱根駅伝への展望

出雲、全日本と3大駅伝が2つ終わり、残すは箱根駅伝のみとなりました。過去2戦は3強のよる優勝争いで、箱根も基本的には同じ構図だと思われます。

2冠・國學院大学は箱根でも本命か?

さて、2冠を達成した國學院大学は、普通に箱根駅伝でも本命視される事と思います。主要駅伝を2つやって2つとも勝つ、というのは、偶然やフロックでは達成できまぜん。3強と言われますが、現状では国学は3強の中でも少し抜けた実力を持っていると思います。
では、箱根駅伝も本命は國學院か、と問われると、長年 大学駅伝を見てきた私は違うかな、と思っています。
というのは、國學院大学には、越えなければいけない3つのハードルがあるからです。

  • 山の攻略が必要

  • 3冠達成の難しさ

  • 過去に箱根駅伝に優勝した事がない

まず、最大のハードルが「山の攻略」です。箱根駅伝には山登り、山下りという「特殊区間」が存在していて、平地の実力とは少し違った能力が問われます。この特殊区間を國學院大学は苦手としているのです。
また、特に山登りの5区は、箱根駅伝で最も差がつく区間です。例えば前回の5区では、区間1位と10位とでは3:32の差がつきました。一方、2区では1位と10位は1:24差でした。(他の区間は、太田選手の歴史的大爆走のあった3区を除けばだいたい1分半くらいの差になります。)つまり、山登りだけで他の区間の倍以上の差がつく区間なのです。
この区間を國學院大学は苦手としています。去年は上原選手が走って区間17位、区間1位と4:57の大差をつけられてしまいました。ライバル校はいずれも山に切り札をもっているので、この対策が上手くいかないとライバル校に大差をつけられてしまいます。そうなると、いくら他の区間で頑張っても、優勝争いという点ではかなり厳しくなると思います。

また、2冠を達成した事で、箱根を勝てば3冠達成となってしまうので、それへのプレッシャーも抱える事になりました。3冠は過去に達成した大学が少なく、ライバル校を圧倒する実力がないと達成できないと思われます。それは、2冠を達成した事から浴びる注目や期待の大きさだったり、半年の間チームの調子を維持する難しさだったりがあると思われます。

さらに、國學院大学が過去に優勝した事がない、というのも大きいです。というのは、箱根駅伝を勝つ成功体験や勝ちパターンを持っていない、という事だからです。そういうものがない場合に優勝できそう、となった時に、様々なプレッシャーが襲いかかってくると思うのですが、優勝したノウハウがあると、乗り越えやすいんだと思います。
(つまり、國學は初優勝のプレッシャーと3冠のプレッシャーをダブルで抱える事になってしまった訳です。)

しかし、純粋に戦力的な事で言うなら、山区間の攻略以外の点では國學にアドバンテージはあると思います。というのは箱根駅伝は全区間ハーフマラソン並みの距離があるため、國學院大学の長所である繋ぎ区間のウェートが高い駅伝だからです。出雲・全日本を制した原動力だった繋ぎ区間の距離割合が増えた上に、さらに区間が増えます。國學は前回の箱根を走ってるメンバーを4人、全日本で使っていません。つまり、選手層という点では最も厚い大学と言えると思います。
ここまで言ってきた要素を乗り越えたなら、ライバル校に勝てる部分は十分にあると思います。

前田監督の分析は冷静で正しいと思う。ただ、95、96回の浦野選手5区は、同等の力を持つ土方選手がいたから可能だった訳で、今年の國學は、平林選手と他のエース格の選手は少し差があるように思います。

2位・駒澤大学こそが箱根では本命?

メディアや世間的には、今回の箱根駅伝は前哨戦2勝の國學院が最有力、もしくは箱根になるとなんだかんだで青学か、という評判だと思います。駒澤も侮れない、とはなっていても、扱いとしては3番手となるのでしょう。
しかし、私が箱根駅伝で最も優勝する確率が高いと思っているのは、駒沢大学なんです。
というのは、駒澤には、前哨戦に対し、大きな上がり目があるからです。
それは、佐藤圭汰選手の復帰です。

故障で欠場したエース・佐藤圭汰(3年)について、指導する大八木総監督は「箱根には間に合う」と見通しを明かした。

スポーツ報知「藤田監督「箱根つながる」駒大2位 2区終了時16位も立て直した底力 アンカー山川は日本人歴代2位 全日本大学駅伝」

佐藤圭汰選手は5000m(室内記録ですが)、10000mの日本人学生トップの記録を持ち、駅伝でも他校を圧倒する力を発揮する駒澤のスーパーエースです。國學なら平林選手、青学なら黒田選手や太田選手といった選手が新たに加わる形になります。彼不在でライバル2校と互角に戦った中にスーパーエースが復帰する訳です。純粋な戦力的な面で言えば、最有力といってもおかしくはないと思います。

また、駒澤には箱根駅伝には重要な「山要員」がいます。山川選手は2年前の5区で区間4位、伊藤選手は2年前の6区で区間賞でした。両選手とも、今シーズンさらに成長した姿を見せています。もし両選手が同区間を走ったなら、区間賞争いの再流力となる事でしょう。また、彼ら以外にも候補となる選手はいるので、山区間は駒澤にとってはアドバンテージと言えるでしょう。

ただ、駒沢は層の厚さという点では、國學院・青山学院に少し見劣りすると思います。もっとも、ちゃんとある程度で走れる選手を10名以上揃える事はできると思われます。しかし、対國學、対青学となった時に勝てるか、と言われると、この面は少し弱点となりそうに思います。

「箱根はやっぱり青山学院」なのか?

昨シーズン(第100回)の箱根駅伝は青山学院の完勝でした。優勝候補だった駒澤の看板エースを青学のエースが上回り、4区で独走に持ち込んだあとは全く隙を見せずに、往路・復路とも優勝と完璧な勝利でした。そこから7人の選手が残り、ポイントとなる選手は全て残ったため、今シーズンの駅伝は青学が絶対的に有利だと思われていました。
しかし、今シーズンの駅伝は、出雲・全日本ともに3位。特に國學院大に対しては完敗と言って良い内容でした。前回の箱根制覇の原動力たる黒田・太田両エースは今シーズンも大活躍していて、昨年まで駅伝では活躍できていなかった鶴川選手も今シーズンは連続で区間賞と素晴らしい結果を残しています。しかし、この3人以外の選手が、ライバル校と比べると見劣りする結果というのが現状です。

箱根駅伝になると違うチームになる青学
しかし、青学は前哨戦の2戦で惨敗していても、箱根駅伝となると全く違う強さを見せるというのがこれまでのパターンでした。昨シーズンも、出雲・全日本と駒澤に完敗だったのですが、箱根では信じられないほどの強さを見せつけての完勝でした。
青学は、箱根駅伝優勝を最優先の目標として最適化するチーム運営をしている大学です。全ての強化は箱根駅伝の優勝のために行われていて、チーム内の意思統一もなされています。もちろん、関東の長距離強化大学にとって、箱根駅伝が最大の目標となっていますが、ここまで徹底しているのは青学だけだと思います。(例えば駒澤は「世界と戦える選手を育てる」という方が優先順位が高いように思われます。)ここ10年で7回の優勝を誇り、箱根優勝に向けてのノウハウを最も持っているチームと言えるでしょう。
また、青学には非常に高レベルの山の経験者も控えています。山登り5区・若林選手、山下り6区・野村選手は共に前回の箱根駅伝で区間2位でした。特に、大差がつく山登り5区は近年レベルが爆上がり中で、去年も区間新記録が出ていますが、若林選手はその区間新とわずか18秒差の2位でした。この山の二人は青学の大きなアドバンテージです。
なので、前哨戦で活躍した3人+山の2人の計5人については、国学院より上(駒澤と互角)の戦力を持っていると思います。
また、先日行われた世田谷ハーフマラソンと、宮古ハーフマラソンで、青学の選手が上位を独占、多くの選手が好タイムでゴールしていました。彼らの中から好調な選手が他の区間を走る事になると思われます。つまり、層の厚さという点では何の心配もいらない、と言えます。

気になる青学の隔年傾向
と、ここまで書くと、「やっぱり青学が大本命」となりそうに思えますが、気になるポイントがいくつかあります。
まず一つ目。91回大会で優勝して以降4連覇を達成、その後の青学は隔年で優勝しています。つまり、4連覇達成以降の青学は、どうも隔年傾向があるのです。
しかも、負けた3大会は、いずれも前年圧勝したポイントのメンバーが残っていて本命視されていた大会でした。逆に前評判の悪い年の方が、本番ではびっくりするような強さを見せて完勝しています。
これは、学生スポーツならではの要因が大きいように思います。まだ精神的に未成熟な学生がやっているスポーツで、かつ選手も4年で入れ替わるため、受け継がれるものと受け継がれないものがある事から、こういう事が起こっているように思います。前年に圧勝して選手も残っていると、いくら「難しい戦いだ」と言い聞かせても、心のどこかに「勝てる」と思って緩む部分はあるのでしょう。逆に、本命視されない危機感の強い年ほど青学のメソッドは輝くという面もあるように思われます。
あと、ライバルが2校ある、というのも戦略を難しくするように思います。去年は原監督の「対駒澤」の戦略がばっちりハマった大会だったと思います。しかし今年は、國學と駒澤という、強みも戦略も異なる2校を相手にしなければなりません。片方を相手にばっちりハマった戦略で挑むと、もう片方に足元を掬われるという事も起こり得ます。青学の強みは戦略の巧みさもあるので、この事も青学にとって難しくする要因でしょう。
また、エース格の選手とそれ以外の選手のモチベーションの違いも気になります。エースの3人は非常に闘争心のあるレースをしていて、レース後のコメントも非常に意識が高いです。しかし、それ以外の選手は、どうも走りから覇気を感じませんし、コメントも意識の高さを感じないのです。つまり、エース以外の選手がエースに頼る部分を感じてしまいます。

ただし、戦力的には優勝する力は十分ありますし、青学が負けた年は明確な「負けた理由」がありました。例えば99回は山登りの若林選手が、97回はキャプテン神林選手が急遽走れなくなるトラブルに見舞われました。なので、そういうトラブルがなければ、青学が優勝する確率もかなりあると言えそうです。

いずれにせよ、3強の争いは、かつてない程の接戦だと思われます。最後まで勝敗の分からない大激戦が見られる可能性もかなりあると思います。

シード権争いは今年も大混戦!

さて、ここからはシード争いに行きます。というのは、今年の大学駅伝は、3強とそれ以外の大学とに明確な差があるからです。
もちろん、勝負事は何が起こるか分からないですし、時期が時期だけに体調不良なども起こり得ます。ただ、予想の段階でそういう事を考慮するのは違っていると思うので、「万全な場合」で考えたなら、他の大学が3強を崩すのはかなり難しいと言わざるを得ません。それくらい明確な差はあると思います。

ただ、シード争いという観点で他の大学の戦力を見比べた場合、そこにも「明確な差」があったりします。

シード争いからは少し抜け出た3校
それは、全日本で4〜6位だった、創価大学、早稲田大学、城西大学です。
ちなみに、出雲もこの順(間にIVY選抜が入りますが)だったので、この3校の序列もちゃんとあると思います。
また、この3校は、近年の箱根駅伝で最重要である2区と5区に強い選手を予定している、という共通点もあります。この点でも、3強+3以外の大学とは明確な差がある、と言えるでしょう。
創価大学の戦力
2区予想選手:ムチーニ選手(前回2区区間5位)
5区予想選手:吉田響選手(98回5区区間2位)
それ以外の有力選手:野沢選手、川上選手、小暮選手、吉田凌選手
吉田響選手は全日本大学駅伝のエース区間で他の有力選手たちを軒並み振るい落とす爆走をして絶好調です。また、野沢選手は全日本8区で区間2位と素晴らしい走りをして、一皮剥けた感じです。さらに、山下りにも前回区間2位の川上選手がいて、失敗する要素が少ない大学と言えそうです。
早稲田大学の戦力
2区予想選手:山口智選手(前回2区区間4位)
5区予想選手:工藤選手(前回5区区間6位)
それ以外の有力選手:長屋選手、伊藤選手、山口竣選手、石塚選手
工藤選手は今シーズン、エースと言えるほど大きく成長しています。2回目の山登りでは、かなりやるのではないかと思います(区間賞争いにも絡んできそうと予想しています)。長屋選手もエースと言えるくらい成長しています。まだ伊藤選手は復調途上ですが、本来なら3強のエースともある程度戦える選手なので、復調すれば大きな上積みになります。さらに、27分台ランナーの石塚選手が復帰すれば、より上を狙えると思います。
城西大学の戦力
2区予想選手:キムタイ選手(前回3区区間3位)
5区予想選手:斎藤選手(前回2区区間8位)
それ以外の有力選手:平林選手、柴田選手、久保出選手
斎藤選手は2年前の激坂王で、前回5区区間賞で山の妖精と呼ばれた山本唯翔選手に圧勝しています。恐らく城西大学としては重要な山を経験者に託す安全策に出たのでしょうが、登り自体は山本唯翔選手より斎藤選手の方が得意そうに思えました。斎藤選手は代わりに2区で他校のエース達との競り合いを耐え抜く役割をになっていましたが、キムタイ選手の成長で2区はキムタイ選手に任せられそうです。という事で、満を持して斎藤は5区に登場するそうですが、いきなり区間記録の更新だってあり得ると思います。それくらい、2年前の激坂の走りは衝撃的でしたし、1万m27分台を出すなど平地の走力も大きく伸ばしてきた今だと、さらに凄い走りをしそうに思えます。
正直、平地の戦力は、創価大学・早稲田大学に少し劣ると思います。なので、この2校を上回りには斎藤選手の爆走が必要だと思います。
(もっとも、吉田響選手も絶好調、工藤選手も大きく成長しているので、この争うは見ものですが。
 加えて、駒澤・山川選手や前回70分切りをした青学・若林選手など、今年の5区もさらに物凄い高レベルになりそうです。)

近年のシード争いの傾向
前年度のシード権獲得校がそのままシード権を獲得できた割合は、ここ5年では以下の通りです。
第100回:8/10、第99回:8/10、第98回:8/10、第97回:9/10、第96回:6/10
年によりばらつきはありますが、だいたい2校くらい入れ替わっています。
また、同じシーズンの全日本大学駅伝でシードを獲得した大学8校がそのまま箱根でもシードを獲得できた割合も調べました。
第100回:6/8、第99回:8/8、第98回:6/8、第97回:6/8、第96回:7/8
6校以上は取れている(それ以上は年による)という感じでしょうか。
ここまで挙げてきた6校は、いずれも箱根シード校でかつ全日本でもシードを獲得しています。残りの箱根シード校は、
東洋大学、法政大学、帝京大学、大東文化大学
また、今年の全日本大学駅伝シード獲得校の残り2校は
立教大学、帝京大学
両方に含まれるのが帝京大学、となります。
それ以外に、全日本で最後までシードを争った東京国際大学・日本体育大学、加えて中央大学・専修大学・山梨学院大学・中央学院大学あたりも争う事になるかもしれません。
ここに挙げたのが11校、残る椅子は4つです。

シード校で全日本のシードも獲得:帝京大学
シード校で出雲・全日本ともに8位と安定感のある戦いをしているのが帝京大学です。チームのキャッチフレーズである「世界一諦めの悪いチーム」を体現したしぶといチームカラーは今年も健在で、粘り強い継走で全日本でもシードを獲得しました。
戦力で言うと、強豪校のエースとも互角に戦えるエース・山中選手の存在は心強く、長い距離を安定して走る選手が揃っていて、山で大きな失敗がなければ、なんだかんだでシードを獲得していそうに思えます。

新監督就任で今年躍進:立教大学
駒澤コーチ時代から良い指導者として評判の良かった高林氏を新監督に迎えた今シーズン、外れなく好結果を残し続けています。それにより「この監督に付いていけば間違いない」と選手が監督を信じられるようになり、より指導が吸収しやすくなる、という好循環に入っていて、非常に良い流れの中に箱根を迎える事ができます。
戦力で言うと、大きく成長しているのが馬場選手。予選会日本人3位、全日本7区4位と、堂々たるエースになってくれました。それ以外にも関カレ・ハーフ入賞の稲塚選手やチームを引っ張ってきた林選手、國安選手などが健在で、山さえ乗り切れればシード獲得は十分にあると言えます。
(逆に、既に名将の雰囲気のある高林監督の未知数な部分が「山の指導はどうか」だと思います。)

悪い流れの中にいる実力校:中央大学
シード争いを占う上で、非常に扱いの難しいのが中央大学です。
持っている戦力は3強に全く劣っていません。吉居・溜池両エースは3強の第エースに対抗できる力を持っている筈で、山にも登り:阿部選手、下り:浦田選手と区間上位経験者がいます。加えて予選会日本人5位の白川選手、今年のルーキーで最も結果を残している岡田選手など、楽しみな選手はたくさん挙げる事ができます。
ただ、前回の箱根で優勝候補の1つに挙げられながら、直前にインフルエンザがチーム内に蔓延しまさかのシード落ち、以来、どうもチグハグな流れが続いてしまっています。予選会も6番目と実力を出しきれず、全日本は12位に沈んでしまいます。特に全日本の内容が悪く、さらに指導陣もその原因がわかっていないという事だそうで、それを聞くと「箱根も大丈夫だろうか」と不安に思ってしまいます。

普通にやれば、3強以外で「3強崩し」の可能性が唯一ある大学です。シード争いどころか、その上の4位争いの3校より上に行く筈の大学です。中央が普通な状態で走れれば、シード争いという点で言えば、その椅子が一つ減る事になり、シード争いはさらに激戦になると思います。

さらに扱いの難しい:東洋大学
さらに難しいのが東洋大学です。前哨戦はさっぱりダメ、今年こそシード危ういのでは、と思われながら、箱根になると見違える走りで上位に食い込んだり、しぶとくシードを獲得している、というのを、ここ数年繰り返しています。つまり、東洋に関しては、前哨戦の結果が全く当てにならない訳です。
さらに予想を難しくするのが、怪我人の多さ。東洋には素晴らしい選手がたくさん入学していて、部分部分では素晴らしい走りをした選手はたくさんいるのです。ただ、いかんせん怪我が多すぎて、重要なレースになかなか出場できなかったり、出場しても大きく調子を落としていたりします。そういう選手の多さは、ちょっと他の大学では考えられないレベルなので、どれくらいの選手が、どの程度まで復帰・復調しているかが未知数すぎるのです。
戦力で言うなら、前回2区・3区・5区で好走した梅崎選手・小林選手・緒方選手は健在で、全日本でもしっかり走っていました。10区区間賞の岸本選手も全日本アンカーで悪い流れの中で好走、シード争いを乗り切るポイントとなる選手はいます。しっかりと状態を上げられた選手が10人揃えられたなら、シード争いの大学に負ける戦力ではないとは思います。
(ただ、中央・東洋が実力を発揮したなら、シード権の椅子がさらに減る事になります。立教の躍進や下記の大学でさらに激烈になるだろうシード争いで、ポイントとなる選手を揃って復調させられなかった場合に逃げ切れるかは微妙に思えます。)

留学生選手の扱いをどうする?:大東文化大学
昨シーズン躍進し、全日本と箱根の両方のシードを獲得した大東文化大学。力のある選手は卒業しましたが、残った選手が順調に成長し、良い選手も入学してきて、今シーズンも堅実に駅伝を戦うと思われていました。
しかし、出雲・全日本とも、良い流れで進めていたレースが留学生選手のブレーキで大きく順位を落とし、全日本ではシード争いから脱落してしまいました。留学生選手は一般的にアベレージが高く失敗する事は日本人選手より少ないのですが(ぶっちゃけて言えば留学生選手って「金で雇われたプロ」ですからねぇ、プロ意識は学生選手とは違いますから)、大東文化大学の留学生は安定感がないように思われます。この辺りの見極めをどうするか、名将と名高い真名子監督の手腕が問われる所です。
戦力で言うなら、楽しみな選手は揃っています。エース西川選手は激戦だった全日本2区を10位で乗り切っていて、エース区間の争いでも力を発揮できそうです。成長株の入濱選手・棟方選手に長い距離に強い大谷選手・西代選手、ルーキー2人も前哨戦でしっかり戦力となっていて、シード権は取れそうな戦力が揃っています。ただし、中央・東洋が実力を発揮した場合、シード権の椅子は残り2つとなり、帝京・立教・法政といった大学を上回る必要がある訳です。そのために、高い実力を持つ留学生選手が実力を発揮して爆走してくれると、その戦いを有利に進められます。(つまり、単に「留学生を使わなければ良い」とは言えない難しい選択だ、という事です。)

ベールに包まれたシード校:法政大学
残るシード校は法政大学になるのですが、法政大学はシード校で唯一、全日本大学駅伝に出場していません。法政大学は、どうも全日本大学駅伝の予選会と相性が悪く、今年も失格者が出て出場を逃してしまいます。全日本大学駅伝に出た大学は、その時点での順列がある程度つくため戦力比較がしやすいのですが、出場していない大学については比較が非常に難しくなります。つまり、今年の戦力という点ではベールにつつまれた部分が大きい大学と言えます。
(他の全日本不出場校は箱根予選会を走っているので箱根の戦力面ではガラス張りになっている訳です。)
戦力的な部分で言うと、去年6位だったメンバーが6人残っていて、しかも全員各種レースで良い走りと見せています。それ以外では、大島選手が1万mの法政記録を塗り替え、エースと言えるほどの急成長を見せていて、なんだかんだで去年と同等くらいの戦力は整えてきそうに思われます。
もっとも、箱根駅伝は毎年どんどんレベルが上がっていて、しかも今年は例年以上にシード争いが激戦になりそうです。去年と同じ戦力だとシード争いを乗り切れるかは不透明です。

ここ数年で最もチーム状態が良い:日本体育大学
ここまでで12校。さらに上で名前を挙げた大学が5校残っています。全部やるとさらに長くなってしまいますので、1校だけ取り上げるなら、日体大です。
というのは、今シーズンの日体大は非常にチーム状態が良いと思われるからです。
まず先日本大学駅伝の予選会を、出場者全員が安定感のある走りをして危なげなく4位で通過、予選会も堅実に4位通過、全日本大学駅伝でも最後までシード争いをした上での10位と、安定感のある戦いができています。
特に、今シーズンの日体大を支える山﨑選手、平島選手の両エースが好調です。予選会では山﨑選手が日本人4位、平島選手が日本人7位と上位に食い込み、全日本大学駅伝でも平島選手が1区区間賞、山﨑選手が激戦となった2区を8位で乗り切っています。また、前回の箱根2区を走った山口選手や箱根8区2位だった分須選手も好走を続けていて、戦力的にはシード争いは十分にできると思います。さらに楽しみなのが、エース山﨑選手が上り坂が得意で、密かな山の神候補だと噂されています。過去2年はコンディション不良で出場できなかった山﨑選手が箱根でどんな走りをするか、非常に楽しみです。

それ以外も、予選会上位通過の専修・山学(特に山学はその後の記録会でも多くの選手が好走していて要注目)だったり、吉田選手に続く準エース格の選手が揃ってきた中央学院だったり、全日本でもう少しでシード権だった東国もシード争いに絡んできそうです。また、チーム状態が悪そうなので名前を挙げなかった順大もいい選手は揃っています。こういった大学が少ないシード権をめぐって激烈な争いをする事になるでしょう。

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