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どん底での出会い3 初めてのデートはシャワーを浴びた後で
その日、お昼くらいから社長の家にいた私のもとに、彼からメールが来た。
今夜の食事のお誘いだった。
今日のゴルフはなんとか切り抜けているらしい。
寝なくて大丈夫なのかな?と思いつつ、
私は嬉しくて二つ返事で承諾した。
待ち合わせ時間は支度する時間もみて、余裕があるように設定した。
明らかに今までの待ち合わせとは違ってワクワク感があった。
条件を決めなければいけないデートではない。
家が近かったので、昨日出会ったラーメン屋の前で待ち合わせすることになった。
いつもは私は早々に切り上げ、適当な理由を付けて社長宅を出た。
儀式の一つ、異性と会う前はシャワーを浴びて、一から準備する
家に帰った私は、シャワーを浴びて化粧を初めからした。
デートだからワンピースがいいか。
入念に準備をして、私は家を出た。
家の前の歩道橋を渡るとすぐ例のラーメン屋さんがある。
此方側から確認すると、彼はもう待っている。
この人は待ち合わせは守る人だ、と感じた。
彼は歩道橋を降りてくる私に優しく微笑んでくれた。
思わずこちらも笑顔になる笑顔。
彼は年相応の清潔な格好で、シルバーヘアーがよく似合っていた。
今日も自転車で来ており、私は後ろに乗ってお店に向かった。
赤ちょうちんの焼き鳥だけではない事実
着いたお店は自分一人では敷居の高そうな焼き鳥屋だった。
焼き鳥屋といえば赤ちょうちんのイメージしかなかった私は、こんな素敵な焼き鳥屋があるなんて、とまた感動した。
彼と一緒にいると感動が多い。
彼は私の分も手際よく注文してくれた。
このお店で初めて“ちょうちん”を食べ、以後よく頼むようになる。
こんなに美味しい焼鳥、食べたことがない。
父親がスーパーで買ってくる屋台のものとは全く違う。
そして一番感動したのは、私のお酒がなくなる前に注文してくれるところだ。
よく見ている。
私自身、営業でお客のグラスが空になると気になってしまう質なので、この気遣いにとても感動した。
葉巻を吸うグレイヘアの素敵なおじさま
お店を出た私たちは二軒目に行った。
彼がいつも行っているという、葉巻の吸えるバーだった。
港区にはデート向けなお洒落なお店が本当にたくさんある。
私は近くに住んでいながらも、行ったことがあるのはお客と会う時に使っていたカフェくらいだった。
こぢんまりとした店内は落ち着いた雰囲気で、カウンター席ではみんなそれぞれに楽しんでいた。
テーブル席もあるのだが、彼はいつもカウンター席を好んだ。
彼が大好きだという、修道院生まれの“シメイ“というビールを初めて私は飲んだ。
飲んだ瞬間、大好きになった。
お互いビールが好きなので、何杯でも飲んでしまう。
葉巻とビールを楽しんだ後、二軒ほどバーを梯子した。
彼との会話はとても心地よい。
心の中にスッと入ってくる。
目上の男性とはそれなりに会ってきたが、威圧感のある人、生理的に合わない人、バリアを引いてしまう人ばかりだった。
しかし、彼は会った時から不思議と何の違和感もなく、一緒にいることが心地良く、自転車の後ろに乗って至近距離にいても嫌悪感はない。
あまり使いたくない言葉だが、まさに運命の人なのだと感じた。
いつの間にかすっかりもう時間は真夜中になり、いい気分になった私たちはまた会う約束をし、いつもの交差点で別れた。
別れた後も心地良さが残っている。
確実に今までとは違う、苦ししいだけの毎日に、一本の光が差し込んでいた。