恋とは巡礼。
渡台して4ヶ月ほどが経つ。大学院での初めてのセメスターはとにかく怒涛だったが、ついに終わった。
台湾に来てから初めての隔離生活7日間は不安だったし、寂しかった。お弁当やアメニティを補給してくれるホテルスタッフには英語を話さない方も多く、私は中国語の勉強を後回しにしていたことを悔やんだ。
到着したその日は不安しかなかったけど、バンビ君は「夕食は何を食べたかな?」とLINEをくれて、その具体的な質問が嬉しかった。受け取って会話が終了する応援型のLINEをくれる人も多いけど、1人ぼっちで旅をする時に必要なのは会話の相手なのだ。
隔離ホテルの床に寝転がって、バンビ君と一緒に聴いたレディオヘッドのプラスティックラバーを聴いていたら、涙が頬をつたって床に落ちた。とっても恋しい。
隔離が開けて台湾の友達に会ったり、大学院が始まって愉快なクラスメートとの出会いが増えたり、課題に追われたりしていると、日常の寂しさはすっかり無くなった。それでもバンビ君によってしか満たされない心のスポットみたいなものがあって、私はバンビ君にビデオコールをお願いしていた。
画面越しにバンビ君の顔を見るとホッとする。
大学院には積極的に授業に参加する日本人を揶揄するこれまた日本人がいるのだが(たかが学校ごときに熱くなってという見方だと思う)、私がそんな集団について文句を言うと「やれるのにやらない人のことは気にするな、全部光で塗り替えていけ」と超ストレートに応援してくれた。
別の日。笑えるほど言動が卑怯な海外から来たクラスメイトと同じグループに巡り合わせて(友達と私は彼をネズミ男と呼んでいる)課題の量が余計に増えるわ、なぜかこちらが陰口を言われるわで精神をすり減らしていると「日本に居たらそんな人とも出会えなかったよ。それを求めて海外に行ったんでしょ」とハッする見方を提供してくれた。
彼の言葉は真っ直ぐで、強くて、優しい。
心にすっと入ってきてすぐに馴染む。
11月のある日バンビ君は「今度仕事で京都に行くのでおすすめスポットを教えて〜」という連絡をくれた。私は京都が大好きで足繁く通っていたので、よくよく考えてこれだと思える数箇所を送る。
期間限定で龍の天井絵が見れるお寺。
オーナーが素敵な古本屋に、陳列が素晴らしい書店。
昇天するほど美味しい鴨肉のラーメン屋。
どれも京都に行く度に訪れたいお気に入りのスポットだ。
12月、出張後初めてのビデオコールで京都はどうだったかと尋ねると「滞在の中のまる1日をあなたの日にしたよ」と言ってくれた。お勧めした天井絵をみて、本屋さんも両方巡ってくれたらしい。鴨肉のラーメンは激混みで、残念ながら諦めたそうだ。
バンビ君は古本屋でジャズの本を買って、その夜はジャズが聴けるバーで赤ワインを飲みながらピザトーストを食べたと言う。その情景は私の頭でも鮮明に再現されて、涎が出そうになる。全ての組み合わせに村上春樹小説に似たシズル感がある。
その古本屋で買った本の中に詩集があるというのを聞いて、私の心は飛び跳ねた。「なんという詩集?」と聞くと、
「ソナチネ」と返ってくる。
予感が当たって、心拍数が上がる。その詩集は私が前に京都に行った際に同じ本屋に立ち寄り、興味を惹かれて購入したものだった。そして台湾にも持って来た、たった4冊の内の1冊でもある。韓国人の作家の感性が新鮮で、美しい言葉の並びに飽きることがなく、何度読んでもハッとさせられる。
全く別の時期にバンビ君が同じ古本屋に訪れ、本の山から一冊の詩集を拾い上げた。その一冊は私が今、台湾の枕元に置いてあるものと同じ。その事実が十分に奇跡的で、しばらく鼓動が止まなかった。
ソナチネの中に、私が大好きな一編がある
バンビ君からくだらないLINEが来るたび嬉しくて、その日のテンションがあがる。本当に「ただ好きなんだなあ」と思い知る。
それでも物理的に離れていると、どうしようもできないことが多い。一緒に時間を過ごすことはできないし、バンビ君には彼の生活をリアルに充実させる権利があるから、もっとLINEを送ってとか、ビデオコールもっとしようとか、何かをせがむことはできないと思う。私は私で、目の前のことに一生懸命になるしかない。
それでも、バンビ君という存在を拠り所にしている自分は確かにいて「次に会う時に胸を張って再会できるように」そう思いながら行動することも多い。これは巡礼なのかもしれない。
そしてバンビ君が、なんと来月台湾に遊びに来てくれるらしい。本当に会えると思うと、今からワクワクして眠れなくなる。でもその数日が終わってしまうことが今から寂しくて、悲しい。それでもその瞬間を輝かせるために、私はできることをやるしかない。その先にあるものに対して、祈っているとも言えるんだろう。
台湾の冬も意外と寒いです。
一年前に書いた記事を思い出しながら、またnoteを更新できることに感謝。
メリークリスマス!
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