誰にも言わない
あくまで凡人的な生活を送っている私ですが、稀にフィクションのような出来事もある。
ずっと友達だった年下の男の子とセックスした。(よければ前回記事もどうぞ!)普通の女の日常にも、こんなキラッとした瞬間があるんだな、世の中ってちょっと面白いかも。そう思ってもらえれば本望です!
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私は二年ほどまえから、大学院進学の準備を進めていた。30代でもう一度学ぶ時間を作ることは昔からの夢なのだ。時を同じくしてバンビ君も分野の違う大学院への進学を目指していて、ふたりで一緒に申請タスクを進めたりしていた。
バンビ君と私は一週間に一度の頻度で会いつつ、大体お泊まりの流れになって、そしてセックスしている。でも相変わらず付き合ってはいないし、お互い生粋のシングル。
ところでバンビ君はいびきがうるさい。本人はぐぅぐぅ気持ちよさそうに寝ているけど、隣の私はいつも睡眠不足になる。
でも、ただの友達である私がひとの枕に口を出すことには躊躇していた。『一線を超えてきたな。うるさい女…』そう思われたくなかった。だがしかし。我慢が効かなくなったある日、ついに言ってみた。
「寝息が大きい…よかったら枕を変えてみて!」
バンビ君は静かに「わかった」と言っていた。
数日後、写真が送られてくる。
バンビ君のベットに鎮座する渋い枕。
その柄はまるで竈門禰豆子の着物のそれだ。でも色は白と黒で、日本昔話感のある様子に仕上がっている。東北の実家にある小豆の枕が思い出される。
「なぜその柄にした?!」つっこまざるを得ない。
でも瞬時に嬉しくなる。『買ってくれたんだ…』
それ以外にも、彼の行動が変わったように感じることが増えた。天然パーマの俳優が好きだという話をしたらバンビ君がパーマをかけた。面白かった映画の話をしたらバンビ君が観に行ってくれた。ホワイトデーのお返しと言いながら、ご飯を奢ってくれた。いつもは割り勘なのに。それから、昔話した些細な話、仕事のチームに今こんな人がいるとか、細かい話を覚えていてくれる。
他人に興味がなく、常に飄々としているバンビ君にとって、これらは結構珍しい。なんというか『大切に想われている』そうじわじわ感じる。自惚れかもしれないけれど。
3月の中旬。私が申請していた大学院入学の書類が通過した連絡と、インタビューの連絡がくる。真っ先に報告するのはバンビ君だ。
「すごいじゃん!おめでとう!」
バンビ君はそう言って、自分のことのように喜んでくれる。私も嬉しさが倍増する。
インタビューが無事に終わった週末。バンビ君と鶏肉の煮込み料理を作って食べる。インタビューが上手く行った報告をすると、バンビ君は優しく頭を撫でてくれる。
「本当によかったね。ずっと頑張っていたんだから。
おめでとう。」
その一言に救われる。涙が出るほど嬉しい。そう、私は長い間苦しみながら、地味に頑張ってきたのであった。声を絞り出して言う。
「応援してくれて、本当にありがとう。」
後日、ふと思う。この関係はなんだろう?
バンビ君と私が付き合ったらどうなるか、想像してみる。
付き合うと言うのは『関係を主張する権利を得る』ようなものなのだろう。例えば、バンビ君が別の人に夢中になったら「私を向いて」という権利。それから、お互いの家族や友達に対して「私の彼氏だよ」と紹介する権利。
その権利に実質的な価値はない。心理的な価値:安心できるとか、自尊心が高まるとか、そういう価値はある。でもそれは形のないもので、いくら長く付き合っても、そして結婚しても、無に帰ることもある。今の私は、その権利のために、バンビ君と付き合わなくてもいい。そう確信する。
将来、バンビ君と私の関係が薄くなって『どうにか繋ぎ止めておけばよかった』そう後悔するかもしれない。
しかも、シングルのアラサー女が付き合いもせず中途半端な関係の男友達がいる様子は、家族や友達からすると『大丈夫?』と思われるだけだ。
でも離婚したばかりの私は、誰かとの関係にコミットにするにはまだ中途半端な心理状態でいる。そしてバンビ君も一人でいる自由を楽しんでいる。そんな中、私がバンビ君との関係を主張する権利を『欲しがる』のはやっぱり違う気がする。
一方で、バンビ君は、私の人生を語る上で、なくてはならない存在だ。大切で、唯一無二。これも間違いない。
付き合っていないことと、彼が特別であることは、どっちも真実。この関係にちょうどいい言葉は日本語には少なくともないけど、真実なのだ。
とても大切で、できるだけ一緒に時間を過ごしていたい人。
それがあなたです。バンビ君。
大好きな宇多田ヒカルがリリースした、新しいアルバム『Badモード』の中にこんな曲がある。
ヒカルパイセンがどんなことを想いこの歌詞を書いたのか、私には想像することしかできないけれど、この曲と歌詞に出会得たことに心底感謝するのであった。
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