やることリスト
死ぬために生きる。
私のダイアリーノートにあるのは「死ぬ前にやることリスト」だ。
その名前の通り、生きているうちに絶対経験しておきたいことを思いついたら書いている。
重鬱なんて奴に襲われて自分の世界が溝みたいに見えていた頃は、「今死んでも何の後悔もない」なんて、悟った風を装っていた。
それが回り回って今の私は「死ぬ間際、これやってなかった!」と後悔をしながら死にたいと生きている。
これは私の切れることのできない希死念慮とやらと向き合うための最大の武器であり、未来への希望なのである。
未来のためにできること、というテーマで書くからには社会や世界、人のためにを書こうかと思ったものだが……何となく、格好がつきすぎてしまう気がした。だから私は、私がやっている自分の未来のためにしていることを書こう。
もしこれを読んでくれているもの好きに私と同じ死にたがりの人がいるなら、こんな奴もいるのかなんて思いながらでも読んでもらえれば嬉しい。
やり方は簡単だ。ノートとペンがあればいい。
そして何でもいいから書いてみる。例えば、私はお化け屋敷が怖くて入れない。それを死ぬまで入らずあの暗闇の先を知らずに死ぬのはどういうものか……などと考えて、そして書く。
「お化け屋敷にはいる」
上出来。こんな風にやらないで死んで悔しくないのか?なんて自問自答をしたものを書いたり、本当に思いつかないときは食べたい高級料理なんか書いたり、砂浜で寝っ転がる妄想をしてみるのもいい。
こういう些細なことを書いていればやがてその思考は習慣になる。
まだこれを達成していないから死ねないと思えたり、もしこれを達成しきれずうっかり死んだら悔しいだろうな……なんて思えたり。これに重要なのは、うっかり死んで後悔を抱いて死ぬことだ。だから、私は身投げをしないように細心の注意を払う。
死ぬ前にやっておこうから始めたノートが死ねないノートとして完成する瞬間である。
それにしてもこれの何処が未来のためになるのかと思うだろう。私も最初は思っていた。刹那主義の遊びのようなものだと。
だが驚くことに、このノートを達成しようとやり始めたことはいつのまにか私の知識となり経験となっていた。そしてその経験は他の人達に聞かせてやれる程のものになっていた。
未来の私が過去の自分よりもより新しい人間になるきっかけに図らずともなっていたのだ。
それに気づいたとき、自分はまるで生まれ変わったかのような心地がした。私がもっと変われるようにさらにやりたいことを綴った。やりたいことの道半ばで朽ち果てれば、それは本来の夢も叶うことになる。
死ぬために書いたものが生きるために書くものになるのだから私は単純だ。
でももし、自分の未来を投げ捨てようと考えている人がいるなら是非にでもやってみてほしい未来のためにできることだと、私は思っている。