40代サラリーマン、アメリカMBAに行く vol. 20 〜起業家に聞く9
バブソンMBAでの授業とは別に、ボストン・日本人・起業家をテーマに、起業家に会って学ぶ活動。今回はバブソンMBAを卒業した後東京の戦略コンサルを経てサーチファンドを起業したYuki Adakeさん。なんと大隈重信の子孫であるAdakeさんは、野村證券時代に事業継承に困る経営者に会い、サーチファンドを立ち上げることを決めた。
この案とても良いなと思ったので、
自分でやろうと思った
母方の先祖が大隈重信であるAdakeさんは、自分も彼のように何か社会に自分の足跡を残したいという気持ちを幼い頃から持っていた。高校生のときに、商学部に進学した先輩から「100円のこの水を1万円で売る方法って分かる?」と聞かれて商売の話をしてくれたことがきっかけで、商売で足跡を残そうと考えるようになる。大学卒業時、起業か就職かで迷った際、既に起業した先輩から「1回大手企業に入社して、どういう仕組みで社会が回っているのかを勉強してこい。ただ、経営者にたくさん会える仕事の方がいいんじゃないか」と言われて証券営業をしようと決めた。投資信託や株式などの金融商品を富裕層に販売する飛び込み営業。1日に100件や150件飛び込んで、自分で顧客を開拓し、金融商品を販売した。
その時の成績が良かったことで、会社の制度で好きな国で1年間好きなことをさせてもらえることなる。選んだのはシンガポール。当時富裕層の統計データを見ると、シンガポールはおよそ3人に1人が金融資産を1億円以上持っていた。世界のどこを見てもそんな比率で1億円以上を持っている人がいる国はない。また日本人起業家の集う和僑会があり、面白いビジネスをしている人たちがいた。シンガポールに行き、シンガポールをハブにして、東南アジアにいる起業家たちがなぜ成功しているのかをインタビューを通して見つけたい。家族を日本に残して単身シンガポールへ。1年で日本人経営者に500人ほど会う。
その後会社に戻り札幌へ異動。以前同様に富裕層に営業していたが、顧客は中堅企業のオーナー。彼らの事業を子どもたちにどう承継していくかといった事業承継のプランニングをするようになる。売上100億円で利益も数億円あるような会社でも、事業継承に悩んでいた。会社を継ぐ人がいないので会社をたたむのか、それともM&Aで誰かに売ってしまうのか。こういった優良企業に経営が分かっている人材が入っていけば、この会社はその土地で生きながらえるし、従業員の雇用も守れるし、取引先も守れる。この経験がサーチファンドの立ち上げにつながる。
ちょうどその頃社内のビジネスアイデアコンテストがはじまり、事業継承の課題解決に取り組むビジネスモデルを提案。実はAdakeさんはこの時サーチファンドという言葉を知らなかった。考えたアイデアが、今で言うサーチファンドとほとんど一緒だったのだ。しかし、この時彼の案は採択されなかった。「ただ私はこの案とても良いなと思ったので、自分でやろうと思ったのです。自分でやろうと思った時に、これまで営業しかしてこなかったため、マーケティングもファイナンスも分からない。だからMBA留学しようと思いました」
MBAを受験する過程で、卒業後にはこういうビジネスをやりたいとエッセイに書いていたところ、エッセイカウンセラーが『聞いたことのあるビジネスモデルだから調べてみる』と言って、サーチファンドだと教えてくれた。そこで起業に強くて、サーチファンドの授業がある学校で、かつアメリカという3点で学校を絞りバブソンを選ぶ。バブソン卒業後はそのまま起業するのではなく、戦略コンサルへ。サーチファンドはソーシング力と経営の課題解決力の2つが必要。ソーシングは買収する会社をどう見つけてくるかであり、野村證券時代の経験が活かせる。ただし、経営の課題解決については経験が足りなかった。その力を伸ばすべく、戦略コンサル、中でも多くの日本の上場企業をクライアントに持つBCGを選ぶ。金融機関やカード会社、工作機械メーカーなどのニッチな製造業を含め様々な業種を担当し、中期経営計画を作ったり、生産性を上げるための制度改革に携わったりと、経営レイヤーが考えるべき課題に3年取り組んだ、そして今年の1月に当初から考えていたサーチファンドを起業した。
失敗が失敗じゃなくて、
さらにキャリアが広がることに繋がっている
サーチファンドとは、経営したい会社を一社探し出し、投資家の支援の下に買収し、自らその会社を経営していくビジネス。まずは経営したい会社を探すために必要な活動資金を出資してくれる投資家を見つける。買収先を探して見つけたら、今度は買収資金を投資家から調達する。買収先を探す方法は紹介とダイレクトソーシング。紹介はM&A仲介会社や中小企業の事業承継案件を持っている税理士や金融機関、プライベートエクイティファンドを介す。ダイレクトソーシングは、東京商工リサーチのようなデータベースから自らリストを作り、DMやメール、電話でアポを取る。こうした業務をアプローチ数、精査した案件数、精査した案件の中で自分が決めている投資のクライテリアに合致した企業数、会社のオーナーと面談した面談数、買収の意向表明をしたオファー数、そしてデューデリジェンスした数に分解し3ヶ月毎のKPIとして設定。こうして自ら進捗管理をしているため、まだ半年ほどだが、100社以上の案件精査をし、既に1社に対して買収の意向表明を出している。もしその企業がオファーを受け入れれば、投資家と約束した活動期間2年を待たずして買収先が決まる。
今年の1月に立ち上げるにあたり、昨年の9月ぐらいから1人の出資者に相談を開始。実際に動き出したのは10月末だ。投資家に説明するピッチ資料を作り始めた。そして11月から投資家に会い4週間で投資が集まった。ただ事業スタート直前の12月30日に1人の投資家から、家庭の事情により出資ができなくなったと連絡を受けた。1人抜けてしまうと、その分誰か新しい投資家を連れてこなければファンド自体が組成できない。焦ったが、なんとか別の投資家に抜けた方の金額分を補填する形で追加出資してもらえることになり事なきを得た。
Adakeさんの話を聞いていると全く迷いなく計画通りに物事を推し進めている印象を受けた。そんな彼にサーチファンドを始めるにあたって躊躇したり、不安がよぎったりすることはなかったのかを聞いた。
「あまりないです。不安をなくすためにBCGに行ったので。経営課題を解決して企業の価値を上げる力はやっぱりMBAの座学だけだと正直きついなと思っていました。BCGに行って、3年間やって、ある程度の自信がついたので、これだったらいけるという感覚があったので、不安は考えなかったです。もちろんファクトとしては、うまくいかない可能性はあると思います。ただうまくいかなかったとしても、僕のように新しいことにチャレンジしてもがいた経験のある人を採用したい会社はどこかにあるだろうと思っています。キャリアのオプションは何もしないでいるより絶対広がると思っているんですよ。その失敗が多分失敗じゃなくて、さらにキャリアが広がることに繋がっているとファクトとして思うんですね。だから別に失敗してもリスクはないなって感情的に思えています」