明日のジョーのアニメを見た。2話だけ。

最近「明日のジョー」のアニメ第一話を見た。
今まで見たことが無かったが、いたく感動した。
流れ者ふうの矢吹ジョーという男がスラムにやってきて、やくざと喧嘩になり、その体のばねと獣のような目に惚れた丹下段平がボクシングの世界にジョーをいざなう、という話。
とにかく丹下段平のキャラクターが凄い。
拳闘きちがい、つまりボクシングきちがい、という意味だろう。スラムでは「拳キチ」と呼ばれている段平。
出っ歯、傷跡だらけ、肥満体というかなんというか、片目、服も汚い、ヒゲが異常。
とにかく無茶苦茶汚いおやじだ。そんなおやじが酩酊、酒とよだれと鼻水を垂れ流している場面には驚いた。
一目で段平が人生の敗残者だとわかる。
アニメの歴史で一番汚い絵だったかもしれない。
そんな拳キチの段平がジョーの力に惚れる。
ジョーはジョーで文無しの流れ者。
人生に負けた男が文無しの流れ者を説得してボクシングに誘おうとする。
なけなしのコートを外で寝ているジョーにかけてやり、なけなしの金はジョーの為におでんを買ってやる。
多勢の刃物を持ったやくざにジョーがやられそうになれば、ジョーに覆いかぶさって「俺を殴ってくれ」とやくざに頼み込んでジョーの体を守る。
自分の全てをなげうって、惚れた才能を育てることを希求する段平の狂気。
段平はジョーの目を獣の目だ、と評したけれど、段平の目も自分の人生というリングから降りることのできない、あきらめることのできない、最後まで勝利をあきらめない獣の目だ。
悲しくて、それでいて心奮い立つような、そんなキャラクターだ。

ジョーの魅力というよりも、この丹下段平の魅力にノックアウトされてしまった。
いわゆる物語理論で行くと「老師」のポジション。
この立ち位置のキャラクターはよく出てくる。
ドラゴンボールの亀仙人、スラムダンクの安西先生、スターウォーズのヨーダ…
しかしどのキャラクターも丹下段平ほど自分の為には育てようとしていない。
だから丹下段平にはドラマがまとわりついている。
もはや明日のジョーという物語は僕にとって丹下段平の物語ということになった。
これからどうなるのか楽しみだ。

老師のポジションで言えば立川文庫の「猿飛佐助」にも佐助の忍術の師匠として戸沢白隠斎という男が出てくる。
この人は亀仙人側の老師で段平感は薄い。
戸沢白雲斎の段平感の強いバージョンの「猿飛佐助」もいつかやってみたい。
忍術で名を世に馳せようと独自に忍術を会得した男が例えば織田信長に使い捨てにされて忍術ができない体になる。
旅をしながら自分の作った忍術を伝えるに足る男を探す。そこで出会ったのが異常に身軽な少年猿飛佐助で…みたいな話。
そう考えるとどのパターンでも行ける。
不幸な事故で容貌が変化して板場に立てなくなってしまった寿司職人が日本一の寿司職人を育てる、とか。
包丁の実演販売させたら日本一やけれど、実演販売中に包丁で人を刺し殺して出所してきた、もう実演販売に立つことが許されない元・実演販売員、とか。
「段平もの」と呼ばれて後世に残るようなものが書けたら幸せだろう、と思う。
まずは書いてみるところからだ。

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