わたしはオリンピアンになりたい
「余裕!」
って、言うわ。
自信満々に言い放つのは小5の次女。
オリンピックで金メダルを獲得時直後のインタビュー。
第一声で答えることはなに?
でたよ。
小5次女のもしも○○シリーズ。
連日オリンピックの中継を見て涙。涙。涙。
わたしたち家族はスポーツ観戦が大好き。
オリンピック時はテレビから動けなくなる。人間活動が危ぶまれるほどハマっている。
夕飯の食器の放置率が高い。気がつけば食後2時間たとうも微動だにしない我々家族。
誰1人食器を下げようとはしない。
心の中では誰かーと頼むが虚しく通過するばかり。
あんなにキレッキレに動ける人達を見届ける自分たちかが1ミリも動けなくなってしまう。
オリンピック選手の人間離れした動き。精悍な顔つき。彫刻のような肉体美。
全部がかっこいい。
競技のたった数分のためにかける何百、何千日もの努力の日々。
それ成し得たものだけが立てるフィールドがそれがオリンピックなのだ。
その場に立つ権利が与えられるだけでもすごいのにその頂点! 金メダル!なんてことになるともう…言葉にならない。
金メダルリストのインタビューを見ていると、どの選手もまた泣かせてくるのよ。
競技を終えてインタビューを受ける顔つきの変化だけでもジーーンとしちゃう。
極限まで神経を集中させてギューーンと身体の中に全てのパワーを集めて戦う。
その試合に挑んむたたずまいにし・び・れ・る
試合後のON⇔OFFの違いも凄まじい。
別人みたいに柔和な顔になって、目の濃度が変わるのを見届けるのも好きな瞬間。
ここで、自分に問うてみる。
この先、生きていく道中に選手たちの目のような濃度を放つ瞬間がわたしに訪れる日は来るのだろうか…?と。
ケッ…来ないね。
そんな事を思ってちょっと悲しくなった。
それでも濃淡を起こさないわたしの目はオリンピックから離れない。
そして君が代。
1番高い場所で聞く国歌はどんな気分だろう。
いつも粛々と流れる君が代が世界一表彰台に似合う音楽じゃないだろうか?と思えるのはわたしがやっぱり日本人だからなのか。
とにかくオリンピックの全てに感動ばっかりして、そのスポーツをみたらやってみたい!これも、やりたい。君が代は渋くていい!
「来世、絶対オリンピックに出たい」
をアホみたいに繰り返してうるさいもんだから、
次女が、じゃママは金メダルとったらインタビューで何と答えるのか??と聞いてきたわけだ。
えっ来世やで?わたしの出番は。
それにわたしゃー出るだけでも大満足なのよ。
なのに!? 金ですって!!
「…」
何に1つ思い浮かばなかった。
それらしいことはうっすら頭をかすめた気もするがほんとに話したい一言が出ない。
当たり前だ。
なぜなら私はオリンピアンでも無い。
金メダルもとってない。
来世持ち越しの壮大な夢なのだから。
あの感動的なインタビューは事前に考えられた浅はかな物ではない。
心から沸き立つ金色の泉のような綺麗な言葉に違いなくて、その刹那にしか放てない言葉。
想像すら及ばない高尚な世界なのだ。
答えを返せないまま今夜もまたオリンピックや表彰台やインタビューの都度、ギャーギャーギャーいってるわたしに
「だからなんて言うのん?」次女が2日続けて聞いてくる。
「…」
言えないのよ。ないのよ。
あんまり出ないもんだから、次女におなじみの逆質問をしたら、まさかの
「余裕」
うぁ…
それめっちゃ腹立つやん。
傲慢か!銀メダル取った人に失礼すぎる。
わたしと中3長女からボロカスの
刑にあってしまった次女。
「それでも余裕や!
余裕や金や!」
めげない次女。なんの自信やろか?
まぁ…生意気にも心意気は金だよ。君は。
今世のインタビューはなんせ何にも出てこないので、来世の為にとりあえずイメトレ。
体操をみたらつま先の末端まで力を入れて指先を丸め込んでみる。これだけでもうん。けっこうキツいな。
バスケをみたらエアーフリースロー。
バレーをみたらアタックを打ち込む。気分になってみる。
柔道をみたらなぜかYAWARAちゃんを自分に憑依させて華麗な1本背負いをしてみる。これまた気分。
スケボーなんて悲しいぐらい出来た記憶無ないけど手すりみたいな棒をシャーと滑ってる。これまたまた気分。
女子のBMXで金メダルを取った中国選手の長い髪が颯爽と自転車の速度に合わせてなびく様がかっこよかった。
うん。髪伸ばすわ。これ本気。現世ね。
ほんで二の腕の内側に五輪のタトゥーを彫るね。これは来世ね。正式にオリンピアンになってから。
髪とかオリンピックに関係ないやろ。
すぐ形を取ろうとすんねんから。
五輪のタトゥー来世もいらんやろ。
(主人め!、聞いてたんかい)
今世はとりあえず、劇的オリンピックファン止まり。
来世では長い髪を一つに束ね、二の腕に五輪のタトゥーを掘る。そして金メダルをとる。インタビューでは金の泉の底から湧いてくる言葉を全世界に放つのだ。
わたしはオリンピアンになりたいぞ!
来世こそ!