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何日目の蝉?
ブレイキンな蝉を足元に見つけた。
頭を着地させて微動だにしない。
生きてる?
死んでる?
キメてる?
そのどれだかわかんない蝉の上をまたぐように通過した。
さっきのは何日目の蝉だったんだろう?
いつも蝉を見ると思う。
君は何日目を生きてる?
諸説あるけど蝉は7日の命というのをよく耳にする。
なので私はとりあえず蝉の寿命は7日説を採用している。
今日の蝉は熱いコンクリートの上で何日目を迎えていたのだろう。
もし7日目の最期を迎える時であったなら…せめて日陰の土の上ならよかったのに。灼熱のコンクリートはしんどいよね。
ブレイキンの途中なら、もう十分決まったから飛びたちたまえ。どこか安全な涼しい所へ。
近くにわりと大きな公園があるよ。そこには君好みの木が沢山ある。
1日目なら過酷なスタートをきったね。最初に大変な経験を積んで置くとあとはチョロいだろう。残り6日を謳歌しておくれ。
この前も蝉に思いをはせていた。
ベンチに腰掛けていると視線の先に裏返っている蝉を見つけた。
生きてる?
何日目?
お決まりの言葉を蝉に投げかける。
動いてるような、止まってるような。
わずかなジジジジが聞こえんでもないような。
もし、6日目の蝉でまだ生きてるんだけど、裏がってしまって元に戻る術と体力がないだけで…
あと1日は生きれる蝉だったらどうしようと思った。
小さい頃は兄に、大人になってから行きずりの子どもに捕まえられる蝉をみて心を痛めていた。
ジジジジ…っと泣きながら最後の抵抗をして暴れてるように見えた。
7日目しかない命をしがない虫カゴに収められてしまったらそりゃたまらない。
渾身の力を振り絞ってジタバタして当然であろう。
7日間は人間の尺で考えたらあまりにも短い期間に感じるから心が痛むのだろうか?
生命は蝉に関わらず生を受けた瞬間から死へのカウントダウンをはらみながら生かされている。
頭ではそれを理解しながらもあまり現実味がない。
自分だって、短い生の途中を生きる運命を背負っているかもしれないと言うのに。
なんとなく42歳まで生きてこれたという経験からこの先もとりあえずおばあちゃんになるぐらいまで生きているだろうと思っている。
呑気なものだ。
漠然と明日は絶対くるし、もうあと何十年かは、わたしとして朝を迎えている気がしてる。
まるで、それが当然のように。
今日がもしかして蝉でいう6日目かもしれないのにね。
夏になるとよく水辺の事故をテレビで見かける。
残念だけど、毎年亡くなられてしまう方がいる。
そのニュースを目にしながらこの方々は今日が人生最後の日であると露ほども思っていなかっただろう…。
今朝起きたとき。1年ぶりの海の水がやっぱりしょっぱいと感じたとき。川の冷たさに驚きながら足をつけたとき。流れるプールで浮かんでるとき。楽しさの最中にいたとき…それが今日で…。
心がいつも痛くなる。
わたしの夏休みは今日で終わる。
明日から仕事だ。
少しの憂鬱を感じながら最後の夜を過ごしてる。
それはまた日常という名の当たり前が始まると信じているからだ。
明日が当然そこでまっていると信じている。
だから憂鬱にもなれるのだ。
明日を悲観できること自体じつはとても幸せなことなのかもしれない。
憂鬱っちゃ憂鬱なんだけど…。
明日の保証は絶対ではないのだ。そう思うと、憂鬱もちょっぴり愛しい。
…気がする。
そして、話を戻して裏返った蝉よ。
蝉とか素手でつかめない。
人生で多分ない。
捕まえようもんならジタバタするだろう。
怖い。
でもほっとけない。
恐る恐る近づいてみる。
ジタバタされたら小さく悲鳴をあげてしまうだろう。
たかが蝉。されど蝉。
6日目ならなおのことされどの方だ。
確認したところその蝉は生きていた。虫だけに虫の息。
最後が裏向きは嫌だろう。無念だろう。
持っていた日傘の先端でこれ以上優しいタッチはこの世に無いぐらいのコントロールで蝉を表に返すことに成功した。
お次は道の真ん中で踏まれたら可哀想だからと傘の先端をこれまた繊細に操作しながら日陰の土の方に誘導した。
「ジジジジ(ありがと)」
かもしれない声を聞いて、蝉の最後かもしれない1日が無事に過ごせたらいいなと思った。
蝉で最後に思い出したこと。
角田光代さんの『八日目の蝉』すごいタイトルだよね。
無かったもう1日でしょ?
1番好きな本はなに?と聞かれたら
ジャンルによって違うからとかめんどくさいこと言ってしまうだろ。
だけど、1番泣いた本は?と聞かれたら
『八日目の蝉』とわたしは答える。
長女を出産して間もなくで読んだため、自分のタイムリーな状況と相まってそれはそれは咽び泣いた。
蝉ってエイリアンみたいな風貌なのに案外ドラマもってるね。
夕方、顔を掠めた風にほんの少し秋の気配を感じた。
夏が後退していくと色んなバージョンの蝉に出くわす率が上がる。
その度、何日目?をわたしは繰り返す。
道を歩いているとこれから忙しい。
明日はどんな蝉に出くわすだろう…。
あぁ、本のページを1枚ずつめくるみたいこうして今年の夏が終わっていく。
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