
第3章 「収益力」の高さはここに表れる
3.売れた分だけ「売上原価」に計上!
卸小売業での「売上原価」
売上総利益の計算では、「商品を仕入れて売る」という商取引の流れと、「売上原価」の理解がポイントとなります。
卸小売業では、当期中に売上計上した商品の仕入原価を当期の費用として計上します。これを、売上原価と呼びます。会計上の収益である売上高と、費用である売上原価は直接的に対応させる必要があるのです。
売上原価を確定させるための会計処理には、2つの方法があります。
まず1つめは、商品を仕入れたときには「商品」に計上しておき、売れるつど商品から「売上原価」に振り替えるという会計処理で「継続記録法」と呼ばれています。統合基幹業務システムが充分に整備されていれば可能な方法であり、高額商品の利益管理に向いています。
もう1つは、商品の仕入時は費用の発生として「仕入」に計上しておき、当期商品仕入高に期首と期末の売れ残り商品(在庫)の調整を行うことで、売上原価を確定する方法で「棚卸計算法」と呼ばれています。棚卸計算法は期末商品の数量と金額を確認する棚卸作業が重要な役割を持ちます。
一般的に卸小売業では、毎日、多種多様の商品を仕入れて売っています。購入時に商品へ計上して、売却のつど、商品ごとの仕入価格を調べて、商品から売上原価に振替えて利益を計算するのが困難である場合には、簡便的な「棚卸計算法」も見受けられます。
商品倉庫イメージで考えると、売上原価とは商品倉庫から出荷できた商品の原価を意味しています。期首の売れ残り商品(期首商品棚卸高)と当期中の仕入商品(当期商品仕入高)は、倉庫から払い出したとみなすとともに、当期末の売れ残り商品(期末商品棚卸高)は、再び、倉庫に舞い戻ってきたと考えます。結果として、「売上原価=期首商品棚卸高+当期商品仕入高-期末商品棚卸高」の算式により、売上原価が確定するわけです。

製造業での「売上原価」の捉え方
製造業も「売上高」と「売上原価」を対応させる必要があります。
製造工程のすべてを終了し完成した製品のうち、売上計上した製品に対応する原価のみが費用計上されます。製品倉庫イメージで考えると、売上原価とは製品倉庫から出荷できた製品の製造原価を意味しています。
自社の工場で製品を製造する場合には、工場での製造工程を終えて完成した製品が製品倉庫に届けられ、製品倉庫から顧客へ製品が出荷されます。
そのため製造業は、製品を製造するための原価の明細書として「製造原価報告書」(Cost Report、略してC/R)を作成しなければなりません。製品を製造するために工場で発生する材料費、労務費、経費などのコストは費目別に集計され、製造原価報告書へ内容別に区分表示します。
製造業の売上原価を理解するためには、工場で製品を製造する工程での製造費用、完成した製品が工場から製品倉庫に届けられる過程、製品倉庫における製品の保管と出荷の流れでイメージしてください。

製品の製造費用を構成する材料費は、当期中に消費した材料代のみです。
そこで期首の材料棚卸高と当期中の材料仕入高の合計額から、期末の材料棚卸高を差し引くことで製品を製造するための材料費を計算します。
労務費は、工場で製品を製造するために働く従業員に対する賃金・賞与、法定福利費、福利厚生費などの人に関する費用です。
これらの材料費、労務費のほか、工場内での諸経費や外注加工費などの集計額である「総製造費用」が当期中の製品製造に要した費用の総額です。
総製造費用から製造途中または加工中でまだ完成していない「仕掛品」にかかる期首と期末の在庫調整をして「当期製品製造原価」が計算されます。当期製品製造原価とは、完成した製品にかかる製造費用を意味します。
一般的には、あらかじめ決めた「社内仕切価格」または「標準原価」にて当期製品製造原価に振り替え、決算のときに「原価差額」を調整する方法がとられています。

工場から製品倉庫に届けられた完成製品の製造に要したコストである当期製品製造原価に期首の製品をプラスし、期末の製品をマイナスした金額が、出荷した製品の「売上原価」として費用に計上されます。
結果として、製造業での売上原価は「期首製品棚卸高+当期製品製造原価-期末製品棚卸高」により計算されます。
「売上原価」とは売上計上した商品の仕入原価、製品の製造原価であり、売上高と売上原価を対応させる必要があります。そして売上高から売上原価を差し引くことにより売上総利益を計算します。