マロのプロポーズの切実さとは

「蝶子さんを僕にください!」
マロの部長に言ったこの言葉の真意のついて考えてみたい。

劇中、マロはずっと蝶子の中に残る部長の影を気にし続けてる。二人が出ている間ずっと。
怪我した部長の病室では、政宗に蝶子を「奥様」と呼ばれただけで、敏感に「元奥さん」だと訂正し「今は俺のコレ」だと誇示している。
また、部長が蝶子と離婚した事を忘れてしまったというくだりでも、まだ蝶子が部長を好きなんじゃないかと疑う。
花火の日、屋形船まで予約してムードを作ってプロポーズをするつもりだったのに、蝶子に牽制されて言う事すら出来なかった。「まだ部長の事を忘れられないんだ」と問い詰める。

あれから1年も経つというのに、蝶子からはハッキリとした好きだと言う意思表示もないのだろう。デートに誘えば来てくれるし、手くらいなら冗談半分でも繋いでくれる。だから少なくともマロを嫌いではないのだろうけど、何かと言えば年の差を引き合いに出されて何もどこにも進めずにいた。
それがマロと蝶子のこの一年の実情だったんじゃないだろうか。
なのに蝶子はいつまでも元夫の部長を心配し、春田にフラれた後も元気付けたりしてて、なんなら新しい恋に向かうよう背中を押そうとしたりしていたんだろう。
マロが面白くないのは仕方ない。30年も連れ添って、しかも愛がなくなって別れた訳じゃない元夫婦。絆だって深いし、たぶん部長には今でも蝶子は特別で、愛してさえいるかもしれない。

じゃあ蝶子はどうだろう?
彼女自身にも武蔵への想いが今はどんなものなのかあやふやなんじゃないだろうか。夫の恋を応援した気持ちは復讐や意地なんかでは決してない。本気で武蔵に幸せになって欲しい。未だ一人ぼっちの武蔵に対して、また恋をしたいと思って欲しいし、恋する武蔵を見たい。どこまでいっても放っておけるものではない存在なのだ。
だけどそれはもう愛ではなくて、愛はマロに向かっていっているのは薄々自覚している。だけどそれを認めるのは怖い。もう二度と武蔵との別れを再現したくはない。親子ほどの年の差を気持ちで埋めるだけの強さはなくて、武蔵への執着(もしくは庇護欲)や、失う前提でしかもう恋を考えられない臆病な自分を自覚しているから、一歩も踏み出せない。

マロだって、いつも蝶子の中に見え隠れする部長の影をマロの気持ちだけでは追い出せない。かといってそれも含めて蝶子を愛するなんて強さも度量もない。いつまでもグズグズ部長を想う蝶子と同じように、マロも部長の影にジリジリしているだけなのだ。

そして付き合うなんて期間なんか、もうあやふやに過ぎていて、思いあぐねて行き着いたのはプロポーズ。お互いに普段と違う浴衣姿で、現実から離れたロマンチックな時間を過ごしながらプロポーズしよう。花火を見ながらプロポーズすれば、きっと雰囲気に助けられてなんとかなる。

「俺、浴衣で行こうかな」
それだけ言えば伝わると思っていたマロ。蝶子は蝶子で普段とは違うデートの誘いにマロの真意を悟る。最初から結婚なんてするつもりのない蝶子は、浴衣はもちろん着ないし、むしろ普段よりも質素な服で現れる。
マロはその姿を見た瞬間に、直感的にダメだと悟ったかもしれない。どうしても不機嫌になってしまうけど、蝶子に機嫌をとられたら、条件反射で好きな気持ちが先行してしまう。可愛いというより、少し切ない。
でも結局プロポーズの言葉は言えずに終わる。それどころかむしろ、過去の傷に今も捕らわれていて、前に進むつもりもない蝶子の頑なな気持ちに触れてしまう。

誘拐爆破事件のドタバタの中で、春田と牧が強い絆で結ばれて帰還した時、部長も記憶を取り戻し、営業所の全員が一つになって喜び合った。
やっぱり自分だって好きな人とずっと一緒にいたい。そして部長の事も大好きで、部長は蝶子の元夫と言う前に、マロにとっては頼れる尊敬する上司だ。決して憎んだりしたい訳じゃない。間違っても敵対なんかしたくはないのだ。仕事だって恋だって、必ず自分の手で掴むんだ。

そんな気持ちでプロポーズを決意したんだろうか。
何度確認しようとも蝶子の中の部長を想う気持ちは居座り続ける。ならばその部長本人に蝶子の中から出て行ってもらおう。

「蝶子さんを僕にください!」

今まで30年間、部長が蝶子を愛し、守り、思い遣ってきたその役目ごと俺にください。この先の蝶子の30年は俺が守り、そして愛して、思い遣って、辛いことも悲しいことだって全部俺が一緒に受け止める。だからもう蝶子は俺に預けてください。

この言葉にはそういう想いが含まれていると思う。
「蝶子を幸せにできるのか?」
そう聞かれて、マロには「俺と同じかそれ以上に」と聞こえたのだろうか。
「たぶん」
そう答えたマロの気持ちは、あんなに愛し合っていた部長以上に強く守れるのだろうか。一瞬よぎる弱気な気持ち。
打ち返す次の言葉が「きっと!」
まだ弱い笑
「絶対!!絶対蝶子さんを幸せにします!!!」
言ってそれをホンモノにするのだ。

「ならば応援しよう」

部長が蝶子のマロとの恋愛を応援すると言うのは、それを受け入れてくれたという事だ。マロはホッとする。

一方蝶子は?
今まで自分の方が武蔵の恋を応援してきたのだ。離婚して欲しいと言われた時は、こんな辛い想いをするなんてと打ちひしがれた。でも一途に春田を想う夫を見ると、今更武蔵の気持ちを取り戻せはしないと諦めた。それだって簡単じゃない。だけど武蔵を愛おしく想う気持ちはそんな簡単には消え去らない。
自分に恋した武蔵の猛アプローチを思い起こす時、今の武蔵のウジウジ悩む姿は想像もできない。
そんなにも好きなのか。どうすればいいのかわからなくなるほど、そんなにもはるたんが好きなのか。
弱々しく悩む武蔵の姿を見た時に、ただ幸せになって欲しいという気持ちだけが蝶子の中に残った。妻が夫の恋の手助けなんて、随分おかしな話だ。だけど私たちはそんな風に普通や常識に縛られずにやってきたし、ステキな関係の夫婦だと自負してきた。誰が何と言おうと私が夫の恋を成就させたいのだ。

「応援しよう」
その言葉にとても驚いて、蝶子はジッと武蔵を見つめている。武蔵の唯一の応援団としての自分の役目が終わった事を自覚させられた。今度は自分が応援される番になったのだ。もう武蔵に自分は必要ない。私がいなくても自分で幸せを掴んでいくのだと、武蔵に言われた気がした。

マロのプロポーズに対する蝶子の返事。

「あぁぁもぉ、色々間違ってるけど…はい、わかりました」

間違っているのは自分だ。年の差とか元夫の部下だとか、30年の恋の果てに失った最愛の人とか、だからもう失うことが前提でしか恋ができないとか。そんな自分が色々間違っているのはわかってるけど、でもそれでもマロへの気持ちは間違いじゃない。これはれっきとした恋だ。マロを失いたくないから怖かったのだ。
はい、わかりました。私にはもうプロポーズを受け入れる以外の選択肢は持ち合わせていなかった。

色んな不安を剥ぎ取れば、残るのはマロへの純粋な想いなのだ。それをこんな風に見せてもらわなければ、取り除けないほど、私はダメな大人だったんだ。子どもみたいだって言ってたあなたは全然子どもじゃなかった。こんな私を受け入れ、目を覚まさせてくれた。そんなあなたに自分の全てを任せてみてもいいんじゃないか。
武蔵がこんなに健気に一途にはるたんを想ってきたのだ。自分にだってきっとできる。

マロの喜び様が可愛くて頼もしくて可愛い。大人の男へ1upしても、その愛嬌は変わらず、蝶子も部長もまとめて面倒見るなんて、本当に愛情が深い。

蛇足だけどね。
マロは結婚式をしたいだろうけど、蝶子が頑なに拒んだと思うんだよね。拗ねるよねマロ。妥協案として蝶子の提案。恋人の期間をまずは味わおうって言われて、二人でサイパン辺りへ旅行してラブラブ過ごしたら、マロも納得して上機嫌。っていうチョロいマロでいて欲しい。いつまでもそんな二人に幸あれ!

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たまちゃん
おっさんずラブへの愛を語るnoteです ドラマをリアタイし激ハマりし、今なお漂っています