やっと劇場版OLの感想が言える(注:完全ネタバレしてます)
連ドラで私がハマった理由の一つがストーリーの余白だった。描かれていないけど確実にある“何か”があって、観る方の想像を掻き立てる。
例えば2話で牧は一人わんだほうで飲んでるけど、それ以前に来た描写はない。でも来たことがあるんだろうと推測できる。誰とか?って言ったら春田とだし、じゃあそこでどんな話したのかな、鉄平兄に紹介する時なんて言ったのかな、ちずとあの酔っ払い春田の話で盛り上がったかなとか、想像すると楽しい。
そんなのがドラマの中にいっぱい散りばめられてて、何度も見てはその隙間を埋めたくて色々考え、また見直す。そのお陰で春田と、何より牧の心情に深く触れることになり、すっかりハマってしまった。
映画にもその余白がふんだんにあった。余りに展開が早いから余白じゃなく不足じゃないかなと思うほどだった。
わんだほうでのちずと牧の会話がまさしくそれ。ちずが春田の知らない牧の夢や春田の浮気疑惑なんかを知ってたこと。そして春田が鉄平兄と話してる横で、牧がちずと親しげに話し出す内容が、仕事のこと、そして腕時計を買ったと牧が報告していることがわかりやすい余白だと思う。
その会話を聞いて一瞬にして妄想したよね。
「春田さんが香港から帰ってくるまでに、政宗にもらったこの腕時計は買い換えないとな」
「いいじゃん?春田そんなの気付くヤツじゃないしさ」
「いや。でもやっぱり、そこはオレが嫌っていうか、ケジメなんで」
「牧くん、真面目だよねぇ〜」
なんていう、ちずとの会話を想像してしまう。いや、自分勝手な願望なんだけど笑。二人めちゃくちゃ仲良くなってんじゃん。いや、もう映画化の前から民全員がそうなるとさえ思ってたやつ。二人は既に親友になってる。春田の不在を親友のちずが埋めてくれた。
こういうセリフ一つで空白の一年を妄想させる余白がこのおっさんずラブの凄さだと思う。
そして最大の余白が春田と牧の関係性。
最初からフルスロットルでその余白を見せつけられておののいた。
あの春田の浮気現場(違うけどw)に牧が踏み込むくだり。
春田の牧を見た時のあの喜び様とあの接触具合に心底驚いた。
なんだ?これがあの春田なのか?と大混乱。あの牧にしがみつく雰囲気。え?二人そんな関係になったの!?
で、浮気じゃないと否定するあの焦り方。絶対、以前に嫉妬されてえらい目にあった人の焦り方じゃないの。
春田がどえらい変わった!!
この場面、牧にも変化があった。
牧が春田の部屋に入ってきた時、浮かれた笑顔でニーハオって挨拶した牧に困惑した。
その浮かれ牧はホンモノですか?私は夢見てんですか?って。
そこから一転荒っぽくキレる牧のデレとツンの振れ幅スゴイ!
牧、どっちに向かっても我慢してないっ!!
え?私たちがいつまでもドラマの面影を追って悶えてた一年の間に何があった?
リアルに「この一年で何があったんだよ」ってこっちが聞きたいっ!
きんぴらのくだりもそう。シナリオではコメディ部分なんだろうけど、遣都くんのアドリブでドチャクソ甘ったるい場面に変わった。劇場で腰抜かした。
「よくできました〜」
えぇ?えぇぇぇぇぇぇ!?!?
こんな甘い牧、想像すらしてなかった。どうなってんだ?両想いって凄い!
花火のシーンもそう。あのデレた二人の笑顔たまらん。
「牧ってベビーカステラみたいだよな」
えぇぇ♡それって食べちゃいたいってこと?!?!(悶え)
しかもこれも圭くんのアドリブーーー!
恋人繋ぎに満足そうな春田の笑顔。照れ臭いけど嬉しい牧。もぉぉなんなのよぉぉ!(悶え)
確実に、愛♡育んでた!
この一年で二人はかなり親密になってる!
好きを自覚した春田と我慢しなくなった牧。7話ラストについて圭くんが「好きならより求め合うのが当たり前」と言及したように、初めて春田からキスしたあの日から、お互いを求め合ったのは間違いない。だって一年だもん。好きなら触れたいし優しくしたいし甘えたい。牧だってもう我慢しないもん。
だけどそれが牧よりもはるかに春田に現れたことに私は嬉しさを隠せない。
そこは牧が幸せになる最大のポイントだから。
春田を追うばかりの牧が、両手をいっぱいに広げた春田に抱きしめられた7話ラスト。この先もずっと牧の気持ちを受け止め続けて欲しいと願ったけど、スクリーンの春田は受けじゃなくて攻めだった(そっちの意味じゃなくてね)。
牧が好き過ぎてヤバイと春田の顔に書いてあった。とにかく牧にくっつきたくて仕方ない春田がいて、私が願った二人の姿がそこにあった。
ただ凄いのがね、わんだほうに寄り道して遅く帰った春田が、酔っ払って牧に絡みつくシーン。
牧は帰国後初めて春田が帰ってくるから、ご飯作って待ってたのに、連絡もなく帰って来なければイラッともする。ゆっくり話もしたかったのに、あの状況で春田がまずわんだほうへ行ってしまった事に嫉妬する。そりゃそうだ、わかるよ、牧。
だけど春田はそんなの気付かずご機嫌で帰ってきてベタベタ牧に絡みつく。ここで春田の鈍感さは健在だとわかる。そして牧も怒ってる理由を聞かれても言わない。言いたいことがあっても言わない(言えない)牧の性格が変わってないのもわかる。
すっげぇ二人変わったと思ったのに、根本はやっぱりドラマの時の二人のままだった。あの時からずっとちゃんと繋がってる。
劇場版の面白みは基本がっつりのコメディ部分とこうした春田と牧のイチャイチャシーン。公式からの民へのプレゼントだ。イチャイチャについては、もはや圭くんと遣都くんからのプレゼントだよ。
だけど、
「結婚って本気で言ってます?」
このセリフを皮切りに、春田と牧の結婚までの道のりが描かれ始める。
コメディ、イチャイチャ、道のりがそれぞれ絡み合いながらストーリーは展開していく。ガッツリ民とあっさり民、初見ご新規様にも楽しめるストーリー作りは難しいだろう。究極的に言えば、コメディ映画でこんな爆破させるの!?って笑って欲しいっていう事かなと。でもこの演出は二人が結婚へ向かう為に必要な事でもある。
「結婚への道のり」を追ってみる
「結婚って本気で言ってます?」
この時の牧の気持ちは何なんだろう。
仕事中にピコンピコン春田から何度もメッセージが届く。その内容は徐々に旦那の帰りを待つ妻の様相を呈していく。
こんなことドラマではなかったでしょ?お互い帰って来ない事を気にすることさえなかったし。もちろんその時は両想いじゃないから当たり前なんだろうけど。映画では二人の関係性が、徐々にただ甘いだけの恋人以上に傾きつつあるのがわかる。
春田が牧にご飯を作って貰うだけじゃなく、自分も作らなきゃって思うようになったのは春田から見れば成長だよね。だけど、牧にはあのメッセージはある意味で束縛の始まりだったり、夕飯を作ってくれた春田に対して申し訳ない気持ちだったり、でも仕事で疲れて帰ってきてキッチンがぐちゃぐちゃなのはいい迷惑だったり。嬉しかった筈の春田の料理が単純に嬉しいと思えなくなった。感情があちこちに向いて、春田の事は好きだけど、結婚はそれだけじゃできないと感じ始める。
ここでポイントは、この問題が異性カップルでも同じだってこと。後に出てくる男同士の結婚特有の壁や難題とは違うってこと。
この時点で二人はそこに向き合うつもりはない、というかまだそこにも辿り着けてない。牧においては避けてるのだろうけど。
混乱した気持ちで一緒に住み続けることは夢だった仕事に打ち込む牧には難しいと感じた。そこに幸枝が帰ってきてATARUくんとこの家で住むと言われて、渡りに船だったんだと思う。
倒れて入院したことを牧が春田に言わなかったのは、まず一つに夢だった仕事をしてて倒れるなんて、カッコ悪いって思ったんじゃないかな。わんだほうで春田に「無理して体壊したら元も子もないぞ」って言われてたのに、案の定倒れた。
後で部長に「カッコ悪いところも全部見せ合えるのが、本当の愛なんじゃねぇの」って言われてるのもそう。
それから春田に余計な心配させたくないと思ったのもある。目前に楽しみにしてた花火もあるから余計に言いたくない。入院なんて大袈裟になったけど、実際は翌日に退院できるくらいで大したことないって牧は思ってたから尚更。
でも牧パパが春田にあんな風に言ったから、春田にはおおごとになったし、余計に牧と春田との間で倒れた事の重大性にギャップができた。
ほんの些細なことですれ違う二人。想いは同じなのに、掛け違うボタンのよう。
春田の嫉妬。みんな見たかった。でもそんな事願ってごめん!やっぱり嫉妬って怖い。「別れよう」なんて言葉を吐かせる程にまで追い詰められる。
春田が入院の事を言わなかったのを責めた時も、やっぱり牧はうまく言い訳もできない。
牧の「ギャーギャー言いたくない」は後の「言わなくても伝わる」に繋がってる。
春田は春田で狸穴への嫉妬に駆られ、何にも関係ないジャスを引き合いに出してまで牧に応酬しようとする。
もう春田のこの感情は牧が好き過ぎるゆえ。好きがダダ漏れな分、昏い感情も容赦なくなる。あの一瞬は牧を傷付けても構わないと思ってたくらいの激しい感情だった。牧が思わず狸穴を持ち出したのも、春田の言葉が重いパンチになったから。でも言ってしまった事を瞬間に牧が後悔する表情が忘れられない。
でも全身で、その表情で、その大きな目で牧が傷付いたのがわかった春田は、刹那後悔の表情を見せる。でも昏い感情は沈むと表現されるように重く体の底を這っていて、簡単には消えてくれない。
「別れようぜ」
とうとう言ってしまった。観てるこっちにもドスンと重いパンチになった。
さて、春田にとっての結婚とは?
イコール家族になるということ。
春田は母子家庭で家族というものが他の人のそれと違ったり、だからこそ理想があったりするわけ。
話がズレるけど、ジャスがお兄ちゃんみたいって言った事に、春田が殊更嬉しそうにするのは、春田には兄弟がいないからだってことはすぐわかる。だからジャスが親も兄弟も亡くした話は、春田にはすごく響いたはず。牧に同じ話をしても感じるものは春田とはまた別のものになったろう。
春田を取り巻く家族というキーワードは、もちろんゆで五郎にも出てくるし、家族写真を見つめるジャスに何かを感じられるのも春田だけなんだよ。
家族になるってことは春田にはホントに重要なことで、血の繋がりのない牧と家族になりたいって想いは、春田にとって最上級の愛情表現。
思い出して。春田は単純なんだよ。牧とただ家族になりたいと思う気持ちだけで突っ走って、男同士の障害とか、全然関係なかった。そもそもあんまりよく理解してなかった。炎の中で春田がそう言ってる。
春田の好きな気持ちも牧の好きな気持ちも重さは同じだけど、大切にしたい部分がそれぞれにあって、ホントは方向性は同じなのに、お互いの想いを話し合って理解し合う努力を怠ってしまった。
今が楽しいから、仕事とかやるべきことがあるから、考えねばならないことを先送りにしてしまった。
でもお互いを失いそうになって(別れようぜ)、しかも死ぬかもしれない危機に合って、色んなしがらみが一気に削げ落ちた。
男同士だから結婚できないとか、子どもが好き(だけど二人の間には出来ない)とか、もっと言えば家を探さなきゃとか親にちゃんと認めて貰わなきゃとか、もうそんなのどうでもいい!
残ったのはただお互いじゃなきゃダメなんだって想い。相手が牧じゃなきゃ、春田じゃなきゃ、もう生きていけないってこと。
そうなの。結局ここでも異性カップルでも共通すること。誰にでもありうる不安を春田が羅列する。パンツを一緒に洗ってくれなくなるような、愛情の変化への不安。それでも、それでも牧がいい。牧が言いたいことを言えなくても、すぐにキレても、夢を追ってても、万が一にも自分を好きじゃなくなってさえ、春田には牧を愛するしかできないってこと。牧じゃなきゃ意味がない。
あの炎の中だから出来た究極のプロポーズ。牧はどんなに安心したろう。どんな自分も春田は受け入れてくれる。自分だってそうだったじゃないか。雑な春田でも全然いい。むしろそんな春田が好きなのだ。なのに、忙しさにかまけて向き合うことさえ避けてしまった。家を出てしまった。また春田から逃げてしまった。まだ同じことを繰り返す成長しない自分を、それでも春田は愛してくれる。
エリートの牧、ポンコツサラリーマンな春田。
言いたいことの半分も言えない牧、一から十まで言ってもらわないとわからない春田。
敏感な牧、鈍感な春田。
繊細な牧、大雑把な春田。
父と専業主婦の母と妹との温かな家庭で育った牧、母子家庭で、もしかしたら寂しい想いもしたかも知れない春田。
育った環境も考え方も違う、何もかもが違うまるで正反対の凸凹な二人。だけど、その二人が合わされば見事に正四角形を描く。
その瞬間を炎の中で見た。
OLが描いたのは普遍的な愛だ。BLとかゲイとか、OLはそうじゃないと言ってんじゃない。異性愛も同性愛も関係ない。ただ人を愛する普遍的なものがあるでしょ。それを描きたかっただけ。
春田はゲイじゃない。この言葉だって否定じゃない。そもそもゲイじゃなかったって意味でもない。春田は牧という一人の魅力的な人間を愛する、ただどこにでもいる人間だってことだよ。
ラストはOLから民への贈り物。
焦がれたブラックアウトの続きを見せてくれた。あのブラックアウトの続きに揺れながら繋がっていく二人がいたんだ。
もう相手を振り向かない二人には揺るぎない絆が見える。どこにいたって、地球の裏側だって大丈夫だと思える強い愛情、強い信頼。
あぁホントに完結だ。
私は初見時そう思って泣いたわ。もうブラックアウトなんてしない。全部見せ切った。そんな気概を感じた。全ての役者が出し切った。もうこれ以上を求めるなんてワガママが過ぎる。
そんな感情だった。
でも見たいよ。もちろん続きが見たい。いつまでも見てたい。そう思わせる作品はやっぱ良作だよ。腹八分目だから、足りなくて何度も観に行っちゃう。私、同じ映画を二度以上観に行ったのOLが初めてです♡
おわりだお
長い上にひっちゃかめっちゃかなのに読んで下さりありがとうございました。
おっさんずラブへの愛を語るnoteです ドラマをリアタイし激ハマりし、今なお漂っています