「春田の夢」と「も」の効力

牧に助けられて監禁されてた部屋から脱出し、炎の中を肩を抱き合いながら二人歩くシーン。
春田は「別れよう」と言ったことを取り消し、「俺にも夢、あったから」と牧に言う。この時、牧は「春田の夢」が何なのか聞かない。「聞かないです」とはっきり意思を持って言ってる。
たぶん、牧が春田に自分の夢を言わなかったから春田のも聞かないと言うより、愛し合う二人でも夢はそれぞれ持ってていいし、それを無条件で応援したいって気持ちなのかなって思う。自分がそうして欲しいってことでもあるからだろうけど。キャラクタービジュアル(?)のコピーにもあったのでもわかるよね。
『夢を追いかける人であってほしい。自分も、大切な貴方も』


それはまぁ本題じゃないので置いといて(笑)
この時の「春田の夢」って何だろうって、急にラストの応援上映で思っちゃって。結局牧が聞かなかったからわかんないなって。
そう思いながら観てたら
「俺さ、牧と本当の家族になりたかったんだよね」
春田のセリフがそこに繋がった気がした。
「春田の夢」は「牧と家族になること」。

「別れよう」って言っときながら、ホテルの部屋で狸穴さんから牧を引き離せるかと思って自分の身を投げ出すし、狸穴さんの「牧と」って言葉にまだ反応してしまう。そして一人で鳳凰山に乗り込み自分で解決しようともしてしまう。

春田の中で「別れよう」は嫉妬に駆られた最大の煽りで、牧から「春田さんが好きだから別れたくない」っていう本心を引き出したかったんだろうなって思う。春田はずっと変わらず牧が好きだ。当たり前だけど。
でも春田は間違えてた。牧はそういうこと言える男じゃない。むしろ春田が言えばその通りになってしまう。脆くて危険な男なんだよ。
素直な春田が素直になれなかった結果、拗れてしまった。でも恋ってそういうものだもんね。わかるよ。

それで、この時の春田のセリフ。
「俺さ、牧と本当の家族になりたかったんだよね」

過去形です。
たぶん、牧は7話でのちずとの橋のシーンでも「(春田と)なんで別れた?」と聞かれて「好きだから」と現在形で答えてるのでもわかるように、そういう言葉のニュアンスにとても敏感なんだろうなって思う。
そして春田が「家族になりたかった」と過去形で話したことに、牧は悪い結末を予想したんじゃないかって思ってしまった。
とてもネガティブな人なので、牧は。
そう春田が言った時、牧は僅かに目だけを春田に向けようとしてまた視線を戻してしまう。春田が見られない。そんな風に見えてしまった。
そう思って観てたら、牧が悪い方に思ってるんじゃないかって思えてきてしまう。
春田の「家族になりたかった」に対して「なんですか、それ」と返す牧のセリフが恐る恐るって風にも見える。

ここからの春田のセリフをネガティブ思考で聞いてると、もうダメなのかなって思えてくる。

「俺、なぁんにもわかってなかった」
「そもそも男同士って結婚できないじゃん。法律的に」
「それに俺、子どもすげぇ好きだしさ、そんなのとか色々」

聞いてたらすっごい今から悪いこと言われるんじゃ…って気がしてくる。もちろん春田はその真逆の意味で言ってるんだけどね。そんなの関係ないって。
でも牧にはネガティブな意味に聞こえたんじゃないかと。だから続く牧のセリフも懺悔してるみたいに思えてきた。

「オレも、忙しいのを言い訳にして、ちゃんと向き合わなかったです。お互い嫌なとことかも見えてきて、深くなればなるほど余計辛くなるんじゃないかって」

「深くなればなるほど」
牧にすればゲイの自分にとって結婚や子どもは最大の「壁」なのは承知のことで、だから結婚を春田が口にしたことは、ただ春田の最大限の愛の言葉として受け取っていたかった。
けど二人はどんどんお互いに想いを深くし、いずれ春田の言った結婚という「壁」に向き合わねばならなくなる。
気持ちがどんどん好きに向かえば、「壁」はどんどん高く頑丈になる気がする。真正面から向き合えば、結末が悪い方へ流れそうで怖い。そして今まさに春田がそれに言及し始めたんじゃないのか。

悪い予想から抜けられない牧が懺悔したら、春田が言い始めるあの10個の誓い。


ここで「も」の効力に気づく


「言っていい?」はネガティブな牧には、何言われるんだろうって怖くなるフレーズ。

「牧が料理作ってくれなくなって」①
「メールの返信も全然遅くて」②
「パンツも一緒に洗ってくれなくって」③

ダメ出しだ。
①②はすでに牧がやってる。
怖い怖い!何言われるの?って牧は思ってんじゃないかな。「言っていい?」ってやっぱりダメ出しだった、って。
牧はずっと春田を見れない。下を見てただ堪えてるみたいにも思える。

「ハゲちゃって」④

ここで毛色が変わる。
え?これダメ出しなの?って。
でも次の言葉に事態は一変する。

「デブになっても」⑤

「も」
ここで出てくる「も」って一字。
このたった一字が今までの意味を全部ひっくり返す。その「も」の効力が後半を全然違う意味に変えていく。
この一文でようやく、牧は春田を見る。
「デブになって」じゃなく「なっても」なんだ。
そこに続くのは「例えデブになっても牧が好き」とか、とにかくポジティブな意味が続くと想像できる。
「も」はそのネガティブな羅列をひっくり返すのだ。

「すっげぇオナラ臭くなって」⑥

ここに「も」はついてなくても、もう頭の中では「臭くなっても」になる。

「歯も抜けちゃって全部入れ歯になっても」⑦
「ボケちゃって」⑧
「出会った時のことを忘れても」⑨
「てか俺が誰だかわかんなくなっても」⑩

「俺は牧じゃなきゃ嫌だ」

春田がただダメな牧のこと、お互いの未来が見えないってことを言っていると思っていたのに、それは全部違って、例えそうだとしても牧じゃなきゃ嫌だって意味だった。そしてその逆転は、結婚ができない云々のくだりまで遡るのだ。全部関係ない。ただ牧がいればそれでいい。


最初の④まで「も」がつかないことに、少し意味を持たせてるのではという気がしてしまった。
結末はね、結局一緒なんだけど、その過程を反対の意味で考えたら、またそれもドラマチックでいいかなって思いました。


あと、エンディング間近で春田が本社のプロジェクトリーダーの打診を断るシーン。
あそこで春田は
「これまで通り街を歩きながら、そこに暮らす人たちと一緒に街を作っていきたい。それが今の俺の夢なんで」
と言う。
「“今の”夢」なんだよ。

このシーンの時系列はリーダーの打診を受けるほどの実績を春田が残す時間が必要だよね。そう考えたら、ラピュータ計画に周さんが絡むことによって春田も参加して、そして事業を成功に導いた。その後だと思われる。もしかしたら今回のリーダーは狸穴さんの指名かもしれない。そしてそれは牧がシンガポールへ行く直前くらいじゃないのかな。

炎の中で言った「春田の夢」が「牧と家族になること」だとしたら、それは今はもう叶っていて、「今の夢」は「街の人達と一緒に街を作っていくこと」に変化した。わざわざ「今の」ってつけるのは、そういうことじゃないかと思う。炎の中で言った「夢」が最初からそれなら、今更「今の」ってつけるのが少し変な気もするので。

このセリフから、私は春田と牧はあの後にちゃんと本当の家族になったんだと思った。それが叶って今は新しい夢が春田にはできた。「春田の夢」もそうして変化していくなら、牧だってラピュータ計画の時の「夢」からは今は違った「夢」になってる可能性は大きいって思う。シンガポールへ行く牧には「新しい夢」があり、それは春田と共にでしか叶えられないものであって欲しいなって思う。

まぁこの先はもう観られないから、想像するばかりだけど、こんな見方もできるなって思った次第です。
次観たらまた違う風に感じるかもなぁ。

なんだよ、結構深いじゃん!劇場版!(15回観たら上から目線?)

蛇足だけど、炎の中での最後の春田の「ごめん」は、「別れよう」なんて心にもないこと言ってごめん、これしかないと思う。
鳳凰山に乗り込んだことも、そして捕まって今牧を危険に晒している事も、きっと違う。牧を思ってした結末ではなくて、牧を疑って言ったあの言葉以外に春田が謝るべき事はないと思うから。
死ぬかもしれない時になって薫子さんに聞かれた時も、春田は牧と別れてしまった事を悔いてるもんね。
そして圭くんもドラマ2話の公園で牧にちゃんと謝ったことは正解だったみたいに言ってる。そういうことかなって思った。

どんな見方をしても春田は深く牧を愛してるし、牧も春田を誰よりも愛してる。
これに尽きるの、やっぱ最高だよ春牧。

おっさんずラブへの愛を語るnoteです ドラマをリアタイし激ハマりし、今なお漂っています