ビニール袋
今日も昼飯はコンビニで済ませた。毎日同じことの繰り返しだ。部屋の隅のゴミ袋はコンビニ弁当の空き箱で膨れている。
あまりに自堕落な生活を送っている自分自身に呆れてしまう。また、そんな生活でもいいと思ってしまっている自分にも呆れた。笑えてくる。
そんな自己肯定感の低い私だから、外出は精神的に辛い。外出と言ってもコンビニに弁当を買いに行くだけなのだが。
コンビニの店員や客、すれ違う人、その全員に軽蔑されているように感じる。その視線が痛いのだ。みんなが私に興味を持っていると思うのも自己中心的かもしれない。それでも周りの目が刺さる感じがする。俗にいう被害妄想が激しいってやつだ。
そして、その日もいつも通り他人の視線が刺さったまま、コンビニへ向かう。ただ、この日は一人変な人を見かけた。
ビニール袋を被った男性がコンビニの前で立っていたのだ。
よく町で見かける「変な人」の1人だろうと思った。いつもだったら、変な人もいるもんだなと思って見過ごしているが、この日だけはなぜか彼から目が離せなかった。
ビニール袋を被った男性。服装はスーツ。袋から透けて見える彼の顔から考えるとおそらく40代前後だろうか。となると彼は普通のサラリーマンだろう。どうして彼はビニール袋を被っているのだろうか。コンビニの前で呆然と立ち尽くす彼を横目に、そそくさと弁当を買って帰った。
家に帰って食事を終えて、昼寝をした。何も考えずに昼寝をしてしまうような自分の生活に嫌気がさすこともなくなった。
そして夢を見る。不思議な夢だった。見たこともないおばさんが私とずっと話しているのだ。夢の中だから、なにも疑問は持たずに何かを話していた。仲の良い様子だった。
もちろん夢の中のことだ。目を覚ましたらすぐに忘れてしまう。それが普通だ。
目を覚ましたら夜の7時だったので、コンビニへ弁当を買いに行く。もちろん、うんざりすることもなかった。何も考えることなくコンビニへ向かった。
今日は何を食べようか。弁当の棚を物色していた。すると隣に女性がやってきた。おにぎりのコーナーを物色しているようだ。そうか、おにぎりを何個か買ってそれを食うのもありだな。しかし、それだったら弁当を買った方がコスパが良い気がする。そんなことを考えながらしばらく弁当の棚を眺めて、結局いつもの焼肉弁当を手に取った。
レジへ向かうときに、隣にいた女性の顔が見えた。見覚えのある顔だった。いや、知らない顔だった。若干の恐怖を覚えた。
さっき夢に出てきたおばさんだ。
店を出て、さまざまな考えを巡らせる脳を落ち着かせる。こんなのよくあることだろ。デジャブって奴だ。何をこんなに怯える必要があるんだ。大きく深呼吸をする。そして、家へ向かう。脳内にはまだあの女性の顔がこびりついていた。
その日を境に、同じような出来事が何度も起こるようになった。デジャブのような出来事。しかし、今まで体験したデジャブとは少し異なっている。通常のデジャブと呼ばれるものは、その光景や出来事をなんとなく追体験するようなものだが、今起こっていることは「夢に出てきた人が現実にいる」ということなのだ。
いつも通りコンビニへ行ったときにも、少し遠くのショッピングモールへ服を買いに行ったときにも、ドラッグストアへトイレットペーパーを買いに行ったときにも、見覚えのある顔があった。その顔は全部夢に出てきた人たちだった。
正直怖くてたまらなかった。来る日も来る日も夢の中で見たことのある人とすれ違う。それが何回も続いて精神が摩耗してしまった。
そして、さらに深い被害妄想に至る。
「この人たちは私の頭の中を覗いてるのではないか。」
今日も見たことある人と出会った。昨日も、一昨日も。きっと明日も、明後日も。今まで出会った彼らと、これから出会う彼らは私の脳内を覗き見している。そんな人と毎日出会う。そう考えてしまうと止まらなかった。
私の頭の中を覗き見て、蔑んでいるのだ。見下して、自分は大丈夫だと考えているのだ。自分より下の存在を見つけて安心しているのだ。
私は他人の精神安定剤なのだ。
フードを深く被ってコンビニへ出かける。この日の食事もまたコンビニ弁当で済ませるつもりだ。どんなにフードを深く被っても、外に広がる世界にいる人は私の夢の中に現れた人たちだ。
こいつらは私の脳内を覗いて安心している。
なんでこんなことになっているんだ。
弁当を買って店を出た私は、おもむろに弁当を袋から取り出して、レジ袋を頭から被った。
誰にも見られませんように。
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