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“好き”を極めることが本当に幸せか。音楽で食べていけなかった彼女が“パラレルキャリア”を歩むまで

正社員として働くことがスタンダード。やりたいこと一本で食べていけてこそ成功。

世の中に存在する「普通」に違和感を覚えつつも、一歩踏み出せずにいる方も多いのではないでしょうか?働き方が多様化しているとはいえ、周囲と違う生き方を選ぶのは勇気が必要です。

今回お話を伺ったのは、複数の仕事を掛け持ちして働くパラレルワーカーのみきてぃさん。今でこそ多彩なスキルで活躍する彼女ですが、以前は音楽家としても、会社員としても大成できない自分が嫌だったといいます。

今回は、そんなみきてぃさんがどのような思いでパラレルワーカーとしてのキャリアを切り拓いていったのかに迫ります。

みきてぃ(福島未貴・ふくしまみき)
さまざまな「やりたい」を仕事にして活躍するパラレルワーカー。音楽大学卒業後、音楽の道をあきらめ一般企業に就職するも、すぐに退社。再び音楽家を志す過程で複数の仕事を掛け持つパラレルキャリアへ。現在は、ライター、フォトグラファー、YouTuber、音楽家(トロンボーン奏者)、オンライン職業訓練校の講師など、多岐にわたる仕事に携わっている。
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挑戦しないまま終わるほうが怖い。会社を辞めて二足のわらじで音楽家を目指す

――みきてぃさんは現在、どのような仕事をされているんですか?

みきてぃさん:
ライター、フォトグラファー、YouTuber、トロンボーン奏者、オンライン職業訓練校の講師など、パラレルワーカーとして複数の仕事に携わっています。

――そんなに多くの仕事を! どのような経緯でそのキャリアを歩み始めたのでしょうか?

みきてぃさん:
きっかけは派遣社員とフリーランス音楽家の仕事を掛け持ちしたことです。

もともとプロのトロンボーン奏者を志望していて、音楽大学に通い楽団員を目指していました。でも、オーディションになかなか受からなくて……。多額の奨学金の返済もあり、アルバイトをしながら楽団所属を目指すのは現実的ではありませんでした。

音楽大学時代の様子

みきてぃさん:
そこで、一般企業に就職しましたが、会社の人間関係や正社員という働き方が合わず、たった4ヶ月で辞めてしまったんです。

――4ヶ月で……!

みきてぃさん:
はい。もう何もかもが嫌すぎて、仕事から帰ってからもずっと泣いていたり、休みの日も何もできずに一日中寝ていたり。ここで働き続けても、健康的に暮らせる未来が見えなかったんです

それに、音楽への未練もありました。当時やっていたのが結婚式場に聖歌隊や演奏家を派遣する仕事だったこともあり、「なぜ私は演奏家のお世話をしているんだろう。私が演奏したかったのに」という気持ちがさらに募っていきました。

そこで、どうせ正社員を辞めるなら、もう一度音楽に挑戦しようと思って。派遣社員ならアルバイトよりも時給が高く、生活を担保できそうだったので、派遣の仕事と掛け持ちしながら学校やNPOの演奏会に出たり、クラブ活動や個人レッスンで楽器を教えたりしていました。

――なるほど、それが現実的な選択だったのですね。とはいえ、正社員を辞めるのは不安ではありませんでしたか?

みきてぃさん:
もちろん怖さはあります。でも、何もせずに人生が終わるほうがもっと怖いと思うんです。だから、何かを始めるときや新しい挑戦をするときは、「やらないまま死ぬ怖さとやる怖さ、どっちがいい?」と自分に問いかけるようにしています。

そのときも、ずっとやりたかった音楽にもう一度チャレンジすることと、我慢して正社員として長年働くことをてんびんにかけたとき、音楽に挑戦しないまま死ぬほうが怖いと思ったので、迷いはなかったですね。

やりたいこと一本で生きられない後ろめたさから一転。コロナ禍を機に音楽以外の活動へ

演奏会に出演するみきてぃさん(左から2人目)

――二足のわらじで音楽の道を目指すのは大変そうですが、悩みはありませんでしたか?

みきてぃさん:
自分にとって、本当にやりたいこと一本で生活できない悔しさやモヤモヤはありました

私が卒業した当時の音大は、音楽一本で食べていけることが一番の成功という風潮がありまして……。「プロを目指して音大に行ったのに一般就職するのは負け組」「フリーランス音楽家と名乗りながら、裏でアルバイトや派遣の仕事をするのもかっこ悪い」と思われていました。

私は子どもに楽器を教えてもいたので、先生が実は裏で派遣社員をしているなんて、子どもの夢も壊れるんじゃないか、とも思っていて。

だから、音楽家を名乗りながら派遣の仕事で生活費をまかなっていることを公言したくなかったんです。一方で、周囲の人たちをだましているようで、いたたまれない気持ちにもなりました。

――掛け持ちに対して当初は葛藤があったのですね。変化のきっかけはなんだったのでしょうか?

みきてぃさん:
一番大きかったのはコロナ禍ですね。音楽をはじめ、芸術やエンタメが真っ先に世の中から排除されました。たくさんの楽団が存続の危機に陥ったとき、私がどんなにがんばっても、観客がどんなに音楽好きでも、大きな力によって音楽は排除されることがあると実感したんです

悲しいことですが、これはすぐに変わることでもありません。だから、音楽活動ができない期間にも、どんな形でもいいから周囲に私のことを覚えていてもらうために何かせねばと考えました。そこで始めたのがYouTubeです。

音楽家一本で食べていけないことに、後ろめたさを感じなくていいというか、それどころじゃない状況だった。これが、パラレルキャリアをスタートするきっかけになりました。

憧れの道は本当に幸せか。業界の「普通」と葛藤しながら進むパラレルキャリア

――YouTubeを始めるのもまた、勇気のいることかと思います。どのような心境でしたか?

みきてぃさん:
最初はかなり周囲の目を気にしていました。

当時のクラシック音楽業界には、「楽団に入って成功することこそ音楽家の正しい道」という風潮があり、YouTuberのような活動はいい目で見られなかったんです。

恥ずかしながら当初は私も試行錯誤の最中で、演奏動画のほかに元祖YouTuberのような食べ比べや購入品紹介の動画も配信していて……。楽器と関係のない動画をアップしていることに対して馬鹿にしてくる人もいました。音大時代の仲間には結構からかわれましたね。

YouTube開始当初の動画

――いわゆる「正当な道」を行く仲間がいるなか、違う道に進むことには葛藤もあったと思います。それはどう乗り越えましたか?

みきてぃさん:
音楽を極めた自分の姿を想像したときに、「意外と幸せではないかもしれない」と気づいたことが大きいです。

音楽家はお金を稼げるようになるまで時間がかかるうえ、プロの楽団に入っても一般企業の初任給より低いときもしばしばです。しかもクラシック音楽業界は上下関係が厳しい。苦労の先に手に入るものを考えたとき、「それでも音楽の道で生きたい」と思える人でないと、幸せにはなれないと思いました。

残念ながら、私はそういうタイプではありません。人間関係はなるべく苦労したくないし、年上や上の立場の人は怖いし、できればお給料も高いほうがいい。

それを踏まえると、音楽で大成することは、必ずしも幸せではないかもしれないと気づきました。そこから活躍する同期に対するコンプレックスは徐々に薄れていきましたね。パラレルキャリアを通じていろんな仕事を経験したからこそ、自分の大切にしたい価値観が浮き彫りになったんだと思います。

――前向きに、「音楽家」を極めない道を選んだんですね。

みきてぃさん:
そうですね。気持ちが吹っ切れてからは、とにかく好きなことを何でも仕事にしてみようと思って、写真やライティングを始めることにしました。

写真は以前から趣味で撮っていたのですが、それをYouTubeのネタとして発信し、イベントへの出展を続けたところ、写真家のイメージがついて少しずつ仕事がもらえるようになりました。

ライティングも、趣味でnoteを書き始めたことで興味が湧き、仕事で直接フィードバックをもらおうと「未経験OK」の案件に応募したことで、仕事の一つになりました。

動けないのは心の底ではやりたくないから。本当に必要だと感じるまで待つことも大事

――挑戦したいことがあっても、自信のなさや不安から踏み出せない方もいると思います。そのような人はどうすればよいと思いますか?

みきてぃさん:
これは自戒も込めてですが、理由をつけて踏み出せないときは、心の底ではやりたいと思っていないのかもしれないと、最近気がつきました。

2ヶ月前にコーチングを受けたときに「理想像はあるけれど、なり方がわからない」と話したら、「それは覚悟がないだけだよ」と言われたんです。やり方なんて世の中にいくらでもあるから、本当にやりたければアンテナを張って方法を探すものだと。

そう聞いて腑に落ちたんです。私自身の経験からも、自分のなかで大きな選択をしたときは、まわりに何を言われても「やるから!」と押し通していました。音楽を辞めて正社員になったときも、会社を辞めたときも、YouTubeを始めたときも。

「勇気が出ない」「怖い」などの理由で行動できないときは、まだそれが本当に必要なフェーズではないのかもしれません。家族を養わないといけないとか、やらないと死ぬとか、本当に必要になったら人はやるから、それまで待つのも一つの手だと思います。

――なるほど、無理に動けばいいわけでもないのですね。

みきてぃさん:
そうですね。もちろん、誰かの話をきっかけに動けることはあると思います。でも、最後に動くのは自分ですよね。まわりに言われて無理に動いたり、どうにか自分を奮い立たせたりするときは、行動のタイミングではないのかもしれません。

情報収集はしつつ、「あ、この人だ!」とか「これだ!」と思えるものに出会うまで待つことも大事だと思っています。

・・・

ときにはクラシック音楽業界の「普通」に悩まされながらも、自らの手でパラレルキャリアを切り拓いてきたみきてぃさん。紆余曲折のなかで、たくさん自分と向き合ってこられたことがひしひしと伝わってきました。

特に印象的だったのは、挑戦に対する恐怖心や行動力のなさを悪いものとして否定せず、冷静に受けとめていたところです。何かに挑戦するとき、怖くて躊躇してしまうこともあると思います。そんなときに自分を責めず、まずは自分の気持ちや状態を整理して向き合うことが大切だと感じました。

みきてぃさんのnoteでは、2025年にパラレルキャリアにまつわる企画がスタートする予定です。独学でスキルを身につけた方法やマインド、今後新たにスキルや活動を広げるプロセスを発信するほか、キャリア相談なども構想中とのこと。詳細はご本人のnoteXで告知予定です。ぜひフォローして最新情報をチェックしてみてください!

〈取材・文=たまき あまね(@tama_amn)/編集=いしかわゆき(@milkprincess17)〉

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