滅私
あらすじ
物を捨てよ、心も捨てよ。ミニマリストの男が直面するSDGs時代の悲喜劇。必要最低限の物だけで暮らすライターの男。物だけでなく人間関係にも淡泊で、同志が集うサイトの運営と投資で生計を立て、裕福ではないが自由でスマートな生活を手に入れた。
だがある日、その人生に影が差す。自分の昔の所業を知る人物が現れたのだ。過去は物ほど簡単には捨てられないのか。更新される煩悩の現在を鋭く描く。
感想
必要最低限のものだけで暮らす生活のメリット・デメリットをまざまざと見せつけられる作品。
どこか俯瞰グセのある主人公は、物を持たない志向の人と達のコミュニティに属しながらもどこか一線を引いているような印象を感じ、人間関係においても必要最低限を貫く、かなりミニマリストに徹底した人物であり、そんな淡白さ・冷酷さになんとなく魅力を感じてしまった。
後半の展開が、これまで丁寧に積み重ねてきた物語を、随分と急な勢いで舵を切ってしまったように感じたけれど、それこそがまさに『破壊と創造』なのかもなと考えるとこの突飛な展開も受け入れられた。
本作を読む前から、必要最低限の物だけで暮らすミニマリストという存在を斜に構えて見ていたが、本作を通してそういったものに陶酔する気持ちや原理の一部を理解できたような気がする。とはいえ、ミニマリストに対する印象は大きくは変わらないけど。