マイクのラムネ #シロクマ文芸部(645字)
ラムネの音が聞こえた。
あたりを見回すと、小さな女の子がマイク型の容器のラムネをシャカシャカと振っている。嬉しそうに、歌いながら。
なんだかとても羨ましい気持ちになったので、スーパーへ同じものを買いに行く。
しっくり手になじむ大きさだと思っていたのに、大人になってから見るとずいぶん小さい。かわいいピンク色のマイクラムネを手にとると、急に懐かしさが込み上げた。
「ぜーーーーったいピンク!!」
幼い頃、当時人気だった女性アイドルグループの真似ばかりしていた。母は少し困った顔をしていたけれど、それでも最後にはピンク色のお菓子や服を買ってくれた。
小学生の頃、同級生にからかわれ、学校に行きたくないと泣いた日。
「口を開けてみて。ほら、」
「あーん」と言われて条件反射で口を開くと、母に白くてまあるい粒をポンと入れられた。何か分からなくて一瞬びっくりしたが、優しい甘さが口に広がっていく。
「なあに?これ」
「これはね、元気の出るお薬だよ」
気付いたら涙は止まっていた。
「ほんとうだ、元気、でるかも」
「そうでしょう?むかしお母さんが、おばあちゃんに教えてもらったお薬なの」
そう言いながら渡されたのはマイクのラムネだった。色は、ピンク。
「ユウキは強い子だって、お母さんは知ってる。だからきっと大丈夫。」
母の根拠の無い「大丈夫」を胸に、もうすっかり大人になった。自分で買ったラムネを一粒取り出して、つぶやく。
「お母さん、僕は元気でやってるよ。」
アイドルには なれなかったけどね。
ラムネはホロホロと口の中で溶けていった。
🎤🎤🎤🎤🎤
こちらの企画に参加させていただきます。
すごく何かを書きたくなって、一気に書きました。
マイクラムネ。昔はピンクor水色しかないイメージだったけど、いま調べたら5色くらいに増えてて「いいなぁ~!」と思いました。
自分は母に水色はダメって言われてから、こういうのはピンク一択だった。好きな色が選べるのって良いね。
お読みいただき、ありがとうございました☺️