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許さないけど恨まない

突然だが、私は被虐待児だった。

毒親という言葉がセンセーショナルに取り上げられるようになって久しいが、虐待する親を毒親というのであれば、間違いなく私の親は毒親だった。
教育虐待から始まったそれは、そのうちただの暴力を伴う虐待になって、もちろん物理的な暴力も精神的な暴力もあった。
毒親というと母娘関係が取り沙汰される事が多いように思うが、我が家は25歳で亡くなった末子が難病で入退院を繰り返したり転地療養に赴いたりしていたため母親不在であることが多く、そのぶん父親が母親代わりに家事育児を担っていたため、自然と私と中間子は母親より父親と密接にならざるを得ず、その結果長子である私が父親から一番攻撃を受ける立場となったのだった。
これは教育虐待が始まった8歳から就職し鬱になっても10年以上継続された。

ちなみに中間子と手と手を取り合って父の攻撃に耐えたかというとそうではない。
中間子の中ではそのような記憶になっているようだが、私の記憶とはまるで違う。
母不在の中、家事はほぼ父と私で負担して行っており、中間子は免除されていた。
父と中間子はしっかりとタッグを組んでいた。私からすると二人ともただの加害者でしかない。

彼はあの頃は家事を任されて大変だったとくどき、私を含め自分達は被害者だと自称するが、私からすると彼が家事を担っていたとか、父から攻撃された事実はほぼない。
その証拠に、彼は進学で一人暮らしをしたとき家事が一切できずに一人暮らしに耐えられなくなり学生寮に移ったし、私が実家にいる間は父は終始私を敵視し中間子を褒めそやして愛玩子として差をつけていたのだから。

さて、私がどうしてタイトルの境地に至ったかというと、「親が自分を毒親だと認識した」ことが大きい。
もちろんすんなりと私の言葉に耳を傾けて認識したわけではない。
1年以上没交渉の時期もあったし、スーザン・フォワードの著書に従って対決したこともある。しかも何度もだ。A4用紙にびっしり10枚以上、されたことを書き殴ったものを送りつけたこともあったし、対面して数時間口論になったこともある。父から母が病んだので訴えてやると言われ、やれるならやれ、反訴してやると応じたこともある。
最早ただの地獄である。
これが何度も繰り返されているうち、某教育番組で児童相談所に保護された子どもの話が放送された。
私と同じように暴力と暴言で保護された子どもだった。このことを突きつけた結果、父はとうとう折れた。自分が同じことをしてきた、その結果子どもが児童相談所に保護されるレベルの親だったことを、父はそこでようやく認識したのだった。

そして、母である。
母は最初に書いた通りほぼ不在であった。とはいえ在宅時に父と私がトラブルになっていることは多くあった。
母はそれをほぼスルーし続けた。末子の病気に全精力を注いでいた母は、私のことなど眼中になかったのだ。
末子の容態が安定している時期、その時は母は父から庇ってくれることもあるが、常に末子の状態が安定していたわけではないため、末子の容態が悪くなればそちらにかかりきりになる。
そんなわけで母とは、こじれる隙があまり無かった。
味方だと思ったこともないが、敵認定するには関わりが少なすぎたのだ。

両親にも言い分があった。
末子が難病で入退院を繰り返し、更には転地療養まで行ってきた。精神的に余裕がある家庭では決してなかった。
しかしだからといって、それを理由に暴力を振るうことが是とされるわけではない。
また父は、特に努力しなくても何事も平均点以上取れてきた人間だった。
大変自信家で、確かに能力の高い人だと思う。だが、逆にそのせいで、できない人の気持ちは全くわからないし理解できなかった。
それが、子どもに対する教育虐待に繋がったのだった。

さて、それからどうなったかというと、父は変わった。
老いてきて力関係が逆転してきているのもあるだろうが、父は相変わらず個性の強い強烈なキャラクターではあるものの、逆ギレしたり突然怒鳴ることはなくなった。時々母にいらない一言を言うが、私にたしなめられればそれ以上余計なことは言わない程度にはなった。私に対しては父なりに気を遣っているのがわかるし、父なりに反省し過去を繰り返さないようにしていることが見て取れる。
母も同様で、問題をスルーし続けたことを反省し、母自身の問題からカウンセリングに通っている。昔は父に従属的であったが、かなり主張するようになり、やり込めていることも多い。

過去のことは既に起きてしまったことで、もはや変えることはできない。
だから私はされたことを許すことはできない。
だが、この数年両親が変わろうと努力する姿を見てきた。そのことを否定することはできないし、実際に変わってきた現在から未来にかけての両親を恨むことはできない。
だからこその「許さないけど恨まない」なのである。

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