シニア起業のリアル【4】会社を辞める自分の見え方
会社を辞めるのにおめでとう!だなんて。とてもじゃ無いけど、そんな雰囲気の会社では無いと私は思っていました。表向きは「応援するよ」と言いつつも「うちを辞めて成功するとでも思ってんのか」と言う、裏切り者感が見え隠れする人がいたように感じていました。
実際に「うちのお陰で得た人脈やスキルで商売するなんて、恩を仇で返すのか」と言う空気を感じたことも、正直ありました。でも自分の会社しか知らないから、世の中がみんなそんなもんだと思い込んでいました。
ところが、いざ独立起業します!と宣言すると正反対のリアクションを相次いで受けました。「おめでとうございます」「お花を贈りたいのですが」「いよいよですね」と言われ、なんて温かい人がいるんだろうと感じたのです。
どうして辞めちゃうの?と言う時代は終わったのかなぁと感じます。
これまで何人もの仲間が退職していきました。具体的に私の会社のアナウンサーは、私が在籍した32年間で10数名退職し、それぞれとお別れの挨拶をしました。平成の時代が殆どでしたが、彼らの退職の挨拶の席は、記憶している限り全員、鎮痛な雰囲気でした。あぁ辞めちゃうんだぁ、もったいない、この後どうするんだろうと。在職している方が勝ち組で、退職する方を憐れむような空気だったのをはっきり覚えています。
時は流れて。令和に入って少し雰囲気が変わりました。自分が50代になったからと言うもあるでしょうが、辞めていく仲間に「おめでとう」と言う気持ちが湧くようになったのです。自分で決断し、新たな道へ踏み出していくことに、素直に頑張れ!と言いたい。でも、そんな自分はまだ少数派だと思い込んでいました。
ところがいざ自分が辞める段になって驚きました。社内で十数人に退職の意向を直接伝えたのですが、ネガティブな言葉をかける人はほとんど居ませんでした。逆に「おめでとうございます」「実は私も考えていることがありまして」「主人が同じような事を言うので、良かったら話を聞かせていただけませんか」などなど。これらのリアクションには、正直驚かされました。
また、どちらかと言うと40代以降の人達から、退社への共感のような感情を感じました。世の中、定年まで勤める方がリスクだなどと言われてはいますが、まだどこか他人事にも思えます。そこへ、目の前で私が退職すると告げれば「あ、遠い誰かの話では無いんだ」と、急にリアルに感じた人が一定数いたと言うことでしょう。
お通夜のような空気の中で、退社する仲間を見送った時代から、雰囲気は270度変わったような感覚です。
誰もが認める超ぽっちゃり体型の私を気遣って「体に気をつけろよ。フリーは保証がないんだから」と言葉をかけられました。この言葉危ないなぁと感じました。これは辞める経験をした人には分かっていただけるかもしれません。分かっていただけるかもしれません。
一見優しい言葉のように聞こえますが、背景にヤバいものが見え隠れします。それは、
仕事=ストレスまみれ
と言う思い込みです。つまり、仕事にはストレスがつきものだから、保証の無いフリーになったら、体を壊しても、心を病んでも、誰も面倒見てくれないぞ→大事にしろ!と考えてしまうのではないでしょうか。
ところが職場の人間関係にストレスを抱える人は、仕事をやめると一気に心が軽くなります。残念ながら私も痛感しました。「人は会社を辞める時、仕事から離れたいのではなく、人から離れたいのだ」と説いた人がいましたが、一理あります。在職中に「体に気をつけろ」と言われた時は、そうだなぁと納得はしていましたが、実際退職してみると、めちゃくちゃ心身が軽いんだけど。と実感してしまいました。
仕事とストレスはイコールでは無いんだなぁ。ストレスを受け止めることと引き換えに、仕事をするのでは無いんだなぁと分かったのです。
自宅の仕事場では、自分のルールでオンオフを切り替えられますし、服装も持ち物も自由です。長時間座りっぱなしだと感じたら、ソファーに背中を付けて伸びをすればいいのです。気分を変えたければ、近所にあるコワーキングスペースへ出かけ、他人の目がある、適度な緊張感の中、2時間ほど集中して仕事に打ち込むのも良いものです。
起業して、自分に自分で責任を持つと、仮に仕事がハードでも、ストレスは殆どありません。心身ともに、コンディションを保つために、自分で行動を差配できるのです。一人になったら自己管理が大変だぞ!保証も無いし、やめるのを思いとどまっても良いんだぞと言う人もいました。でも、受け手側の私にすれば
体に気をつけろ!に気をつけろ!でしたね。
逆に、ストレスフリーの世界はいいですよ!と、こちらの世界へお誘いしたい気分でもあります。