「迷子のコピーライター」読書感想文
美容院では渡された雑誌をおとなしく読むほうです。でもその日は、手に入れたばかりの「迷子のコピーライター」を早く読み進めたかった。
あ、今日はこれ読むんで。と言えば当然美容師さんはたずねてくる。
「小説ですか?」
「いえ違うんです」
「どんな本なんです?」
まだ第2章の始めまでしか読んでいない。ただ、6月22日に大阪で行われたトークショーには参加していたため、日下さんについての情報を少しは入手できている状態。
「えっと、アフガニスタンで、UFOを呼ぶ話」
美容師さんがそれ以上突っ込んでくれなかったのは不本意だけど、おかげで毛を染められながらだいぶ読み進めることができました。
迷子のコピーライター
著者:日下慶太
初めてのnoteは、この読書感想文にしたいと思います。
ここ数年は確実にぼくの人生だ。
さて読み始めようとページをめくったとたんにドキッとさせられる。この短い言葉だけで「あなたはあなたの人生を生きていますか?」と問われている気になる。あれ、カバーはなんだかあれだけれども、この本思った感じとちょっと違うのかも。
そこからは、日下さんの半生が順を追って綴られていく。
スタートは壮絶な旅の話から。鳥葬の話に目を覆い、シベリアのハスキーにふふっと笑う。家族を亡くす話に胸がぎゅっとなり、奥様の出産にまつわる丁寧な描写には私も手に汗を握る。
仕事に関する話ではちょっと辛くもなってくる。文章から染み出してくる仕事に対するもどかしさ。
おもしろいものなど作れる気がしなかった。自分がとてもつまらない人間に思えた。その結果を、少し自分のせいにして、かなり環境のせいにした。ぼくは迷っていた。ぼくの人生の主人公がぼくではなかった。
ああ、これはダメだ、泣きそう。私もおもしろいことができない。毎日忙しいような顔をして何やってんだ。その前に私のおもしろいことって何だ。私のおもしろいことはどこにあるんだろ。
日下さんのようなスーパークリエイターに対して「わかる、わかるよ。私もそうよ」などと安い感想しか出てこないくらい泣きそう。
でも。涙目の私に日下さんはあっという間に答えをくれる。
仕事と関係なくこのまま馬鹿騒ぎをしていればいいのではないか。
やると決めたからにはきちんとやらなければいけない。
「馬鹿騒ぎ」と「きちんと」たぶんここ大事なとこだ。
この二つに取り組むうえですごく重要なことを惜しみなく、巻末の「おまけ アホがつくる街と広告」で教えてくれている。おそらくどんな業種のどんな立場の人でも応用ができるように落とし込んでくれているので、この部分は絶対に、本、読んだほうがいいですよ。そして、
照れと遠慮を捨てる
この本の中で何度か出てくるこの言葉を、私はトイレにでも貼って毎日見よう。
読み終わっていちばんの衝撃は、
日下さんは現役の電通社員だということです。まじか。
企業に身を置いたまま、しかも電通というとてつもない巨大な看板を背負ったまま、UFO呼べちゃうんですね。
(トークショーのときにステッカーが1枚もらえるとかで、私は「迷子」のステッカーもらったんですが、今となっては「エンバーン」をもらえばよかったなと後悔)
私はずっと、いま自分がおもしろいことができないのは、会社に属しているからだと思ってきた。決定権がないわけだし、自分の意見は通らないことも多いし、輝いて見える友人たちもみんなフリーじゃん。フリーなら自由だしチャレンジもできるだろうけど、そんな能力ないし、おそらくやる気もない。私にはどうにもできない。現状に甘んじてやっていくしかない。そう思っていたのに。
日下さんはサラリーマンだ。
きっとご存知の方も多い商店街のポスター展、その仕掛人でもあると初めて知った。私、この商店街のごく近くに住んでいるので、ある日突然おかしなポスターが増えてなんじゃこりゃと思った記憶があったのでした。電通がからんでいたなんて。いやからんでいないということになるのかな。上司にも話を通した上で、完全に無償のプロジェクトだったんだそう。
企業に所属していながら、おもしろいことはいくらでもできる。
それを見せつけてくれた本でした。
その手段もあますところなく教えてくれています。
折に触れてページをめくり、勇気をもらいたいと思います。
ところで、この本は爆笑どころも満載です。
いちばん声出して笑ったのはここ。
光の中から妻が上がってきた。来ていることは知らなかった。
この一文にたどり着くまでの畳みかけ方がものすごい。
そのシーンがいかに異世界で、極彩色で、カオスであったかが文字とは思えない力強さで襲ってくる。目の前がチカチカしてくるような勢いで迫られてからのこの一文。
寝る前のお布団の中でゲラゲラ笑いました。
読む人それぞれ、心に残る部分が全く違う気がします。
故郷が恋しくなる人、家族が愛しくなる人、仕事のエネルギーをもらう人、健康に感謝をする人、被災地に思いをはせる人。
私自身、1年後にもう一度感想文を書いたら、全く違う内容になるかもしれない。なっていたいと思う。
私も私の人生の主人公になろう。
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