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ビルからのぼる煙 【137/1096】

分厚い窓ガラスの外
音もなく
ときおり遠くの木々がゆれる
しずかに鳥が舞っている
とても晴れた午後のこと

みなしずかに外を見ている
ただただ
外を眺めるだけの場所
 
ビルの上から煙が流れ出ている
あれはなんだろう
しずかにもやもやと
しろい煙が空に溶ける
とめどなく形なく消えていく
ここはとてもしずかだ

風がなければ
なにも動かない窓の外は
まるで静止画のようだ
目線を脇にやると
川面がちらちら揺れている
生きている
ここはとてもきれいだ

雲一つない空へ
煙だけがひっきりなしに
動いている 漂っている

またそよぎだす木々
横切る鳥たち
しずかにながめ
たたずむ自分
ひとりだけどひとりでない
無声映画のような
しずかな景色
ここはいいとてもところだ

しんとした気持ちで眺めている
どのくらいのときがたっただろう
そろそろ帰らねばならない
うちへ戻らねば
ひとたびの夢は
また現実へ
ここははざまである
いつまでもいられない場所

たちあがり伸びをする
帰宅すべく踵をかえす
階段を下り
文字通り外界へ
さきほどとかわって
轟々と音のなる世界
人や車の動きがはげしい
来た道とちがう道を
慣れた様子で歩き進む
寄り道の誘惑にかられるが
寄りたいところが見つからない

あきらめて地下鉄に乗りこみ
帰路へ
シートに体を埋め込むように
眠りにおちる
つかれた
疲れ果てた

楽しい時間はつかの間
どこにも所属しない自由な自分の時間
あっという間にすぎ去り
現実がちかづいてくる
気持ちが暗くなっていく
すっかり日も暮れて
家が見えてくる
電灯がついている
家人がいるのだろう
「ただいまぁ」と
元気があるかのように
家に入る
みやげ物をわたし
喜ぶ顔をみる
上着を脱ぎながら
元の自分に戻っていく
また日常がはじまる
明日も明後日も
変わらぬようすで暮らしていく

今日もありがとう
気分転換の旅