空想お散歩紀行 人工知能が物語を紡ぐ日
とある作家がいた。彼は群像劇が得意だった。大勢の人物が、それぞれ違う場面で物語を繰り広げ、最後には全てが一つに集約される。
それはバラバラだったはずのパズルのピースが一つ一つはめ込まれていき、物語のクライマックスで完成を迎える。その爽快感が多くの読者を魅了し、世界中にファンがいた。
しかし一つ難点として、彼は執筆が遅かった。
物語を書いては休載し、再開して続きを書いてはまた休載しを繰り返していた。
なかなか物語は進まなかったが、それでも彼の作品を待ち望んでいる人は多かった。
しかしある時、悲劇は突然起こり、その一報は瞬く間に世間を走り抜けた。
彼の突然の死である。
病死、事故死、それとも自死か、真相はついに分からなかったが、ともかく彼がもう筆を取ることはなくなったことだけは事実だ。
彼の作品を待ち望んでいた人たちは落胆した。もうあの作品の続きは読めないのかと。
しかし、時代はそんなファンの人々を裏切らなかった。
彼は生前、自分の情報を全て人工知能へと保存していたのだ。
彼は死んだが、彼の後を人工知能が引き継いだのだ。
人々は喜んだ。あの作品の続きが読める。しかも人工知能が書くのなら完結まで心配することはない、と。
だが、事実は小説より奇なりとは言ったもので、間もなく厄介な問題にぶち当たった。
彼は群像劇が得意だった。彼が死ぬ前まで書いていた作品もまさにそれだったが、あまりにも多くの登場人物、あまりにも張り巡らされた伏線が、今後の展開にいくつもの可能性を生んでしまったのだ。
人工知能がどれだけ優秀であろうと、結局は本人ではないので、最後の最後、どの一本に絞るかを決めることができなかった。
そこで彼のコピーとなった人工知能を増やし、それら全ての可能性を物語として書くことにした。
枝分かれを始めた物語は、その先でさらにいくつもの分岐を繰り返し、ついには無数の流れとなり続いていった。
今年で彼の死後300年となるが、物語はまだ終わりを迎えることなく、人工知能たちによって続きが書かれ続けている。
その他の物語
https://note.com/tale_laboratory/m/mc460187eedb5
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