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空想お散歩紀行 ハロウィンと農家

季節ごとのイベントというのは特別な需要を生む。
クリスマスにはおもちゃが売れるし、バレンタインにはお菓子が売れる。
そして、今はじきにハロウィンを控えた時期だ。
今日はとある農家を取材のために訪ねている。
ハロウィンと農家と聞いて何を連想するだろうか?
かぼちゃ?確かにそうだ。ハロウィンとかぼちゃは切っても切り離せない。
だが、他にもハロウィンに欠かせないものがこの農家で作られている。
農家の主に案内された畑。そこは一面土だらけだ。草の一本も生えていない。少し鼻をつく匂いは肥料か何かだろうか。
「たぶん、今日あたり採れると思うんですけどねえ」
主はにこやかに私に言う。こちらとしてはせっかく取材で来ているのだから結果が欲しい。だがこればかりは人がどうこうできるものではない。私は上手くいってくれと心の中で願いながら畑を見つめていた。
それが通じたのか、畑の一部に動きがあった。
土が何やら震えるように揺れ始め、そして間もなく、勢いをつけて土が空に向かって小さく吹き飛んだ。
そこに現れたのは、濁った緑色をした腕だ。
「おお、なかなか活きがいいのが出て来ましたな」
主が実に嬉しそうに畑を見ながら言った。
その直後畑のあちこちから同じような色をした腕が次々と生えてきた。
「いやあ、今日は豊作だ。いいゾンビたちですよ」
ゾンビ農家の主は満足気だ。ここは一年を通してゾンビを栽培育成している農家だ。
普段は天界侵攻用の戦力として使われるゾンビだが、ハロウィンの時期には祭りを盛り上げる素材として使われる。
「人間の死体は毎日手に入りますが、良い死体が良いゾンビになるとは限りません。大切なのは土と肥料の配分です」
主はゾンビ農法について語る。ここが今回の取材の肝だ。確かに改めて畑の土を見ると、素人目にも丁寧に手入れをされている土だと何となく分かる。
「それと、毎日の呪力供給です。ここが一番難しい。多すぎても少なすぎてもダメです」
何気なく辺りを見回すと、そこかしこに見慣れない器具が取り付けられている。
おそらく呪力調整用の魔導具なのだろう。畑だけではない。この農場全てが一つの魔導儀式の陣の中にあるのだ。
「ただ、どれだけ計算に計算を重ね、慎重にことを運んでも、同じ結果が毎回出てくるわけではありません。最後は自然という偉大な存在に任せなければいけません。まあ、だからこそこの仕事は面白いんですが」
たぶん、苦労も多いのだろう。だがそれ以上のやりがいを主の言葉の中から容易に想像できた。
主と話している間にも畑からはゾンビが出てきている。早いものではもう上半身が土から出てこようとしていた。
今年のハロウィンも楽しめるものになりそうだと、私は自然とそう思っていた。

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https://note.com/tale_laboratory/m/mc460187eedb5

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