空想お散歩紀行 仕事の流儀
式神職人の朝は早い。
夏だろうが冬だろうが、まだ日の昇らないうちから水垢離で体を清め、焚火の前での瞑想を経てようやく式神製作にかかる。
どんなに優れた技術を持っていようと、まずは心を整えないと何事も始めてはいけないという代々伝わる伝統である。
式神製作に使う道具も、厳選された材料から作られ、製作者と共に長い時を過ごしてきたまさに相棒と呼ぶに相応しい物であり、この道具を失うことは、自らの腕を失うことと同じと言っても過言ではない。
こうして、一流の職人によって作られてきた式神だが、最近はその歴史に暗雲が見え隠れし始めている。
かの天才、安倍晴明の登場により、陰陽師を志す若者が続出。
それ自体は歓迎すべきことなのだが、それにより式神の需要が大幅に増加。
これまでの供給体制では間に合わないということで、都では著しい式神不足に陥った。
そこへ現れたのが、海の向こうよりやってきた人々である。
彼らはこの国にはない技術を持っており、それにより式神を短時間で大量に作ることができるカラクリを導入。
大量生産により価格も抑えられることが功を奏し、現在使用されている式神の実に8割がこのカラクリ製だという調査もある。
従来の式神職人たちもこの技術は認めれているが、不安も隠しきれない。
それは、自分たちの式神が必要とされなくなるという危機感もあるが、それ以上のものが彼らの心にはあった。
本来陰陽術とは術者と式神との精神の融合が肝心である。
しかし、カラクリ製式神は短時間に大量に作るために、どのような術者が使うのかという点があまり考慮されていない。
確かにそれにより、誰でも手軽に扱うことができるという利点もあるのだが・・・
もしこれまでにない強力な妖や魔が、世の中に現れ暴れ始めたら、果たして太刀打ちできるのだろうか。
職人たちは不安を覚えるが、自分たちにできることは、ただ今まで通り一つ一つ式神を作ることだけである。
そこには長い歴史を背負う者の意地と誇りが垣間見えた。
~職人・仕事の流儀 過去と未来を繋ぐ、術式の祈り~
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