空想お散歩紀行 誰も知らない神の内部
この惑星には、太陽が二つある。
一つはこの惑星から遠すぎて、この星を照らすのも暖めるのも難しい。それは、空に浮かぶ小さなろうそくの火のようだった。
そしてもう一つの太陽。これは宇宙空間に無い。この星の空に浮かんでいる。
それは最初から空にあった。少なくともこの星に住む人々の歴史の始まりからそれはそこから動くことなくそこにある。
それは、楕円形をした銀色に輝く巨大な物体。それはこの星の一日の半分は光を放ち、半分は光りを抑える。いや、正確にはその空の物体が光りを放っている時間を昼、抑えている時間を夜として一日ができた。
それは光りを放つだけでなく、温度も放つことで星を温めていた。
二つの太陽がこの星にはあるが、こちらの太陽の方こそが、この星で人や動物が生き、植物や作物が育つために必要なものだった。
人々はこちらの太陽を神と同列に扱った。
この常に空に浮かぶ、その神と呼ばれる物体。それが何でできているのか、表面は金属なのか?中には機械的な何かがあるのか?未だかつて、ほんのわずかなことも人々は解き明かすことはできなかった。
と、言うよりも、遥か昔からそこにあることと、人々がそれを神格化していることであまり深く立ち入ろうとしていないのだが。
しかし、そんな中で一つだけ分かっていることがある。
それは、その神は生贄を必要としているということだ。
一人の人間が選ばれ、その者は死ぬまでその中で生きることになる。神の中でどうなっているのかは誰も知らない。一度中に入った者は一生を終え、死ぬと外に出され、次の者が選ばれる。そうすることで、神は起動しているのだ。
誰も見たことの無い神の内部。そこに今日も生贄として捧げられた者がいる。
地上にいる人々は毎日、空に向かって祈る。
それは神に対してなのか、それとも自分たちが生きるために犠牲になっている者に対してなのか、答えは人それぞれだろう。
「いよぉぉっしッッ!!」
叫び声と共にガッツポーズを決める少女がそこにいた。
目の前にあるのは、壁一面のモニター。その中では少女が操るキャラクターが一位の台座に座っていた。
宇宙中から参加者が集まるネットワーク型対戦格闘ゲーム「ミルキーウェイファイターⅥ
」
「やっとこさ取れたわー」
満足に満ちた笑顔で少女は椅子にもたれかかる。長時間ゲームに興じていても腰にダメージがない最高級の椅子だ。
そして冷えたジュースを喉に流し込む。目標を達成した後の一杯は格別だと言わんばかりに、かーっと彼女は声を出す。
『おめでとうございます』
部屋のどこからか声が聞こえる。
それは、この惑星の空に浮かんでいる、人々が神と呼ぶ銀色の物体。そのシステムを司るAI。
『いかがですか?これが今宇宙で一番熱狂を呼んでいるゲームです』
男とも女とも取れない声がたんたんと説明をする。
「いやー、最高だわ。宇宙って広いのね。こんな娯楽があるなんて」
彼女は今、神の中での生活を満喫していた。
ゲームだけでなく、宇宙中の映画や雑誌、グルメがこの神の中では取り寄せ放題だったのだ。
さらに宇宙通信で彼女には友人が何百人とできた。
『他に何かご要望はありますか?』
「そうねえ。最近ゲームのしすぎで運動不足だから、何か体動かしたいかな」
『了解しました。では3‐Bエリアにトレーニングジムを建設します。二日もあれば完成するでしょう』
「うむ。苦しゅうない」
ここは地上の人々が神と呼ぶ物の中。正しくは惑星環境維持システム。そのシステムを動かすために人間一人分を生体パーツとして収納する必要があるが、その代わり中での人間の生活は全面に渡って保障されることとなる。
「いやー、快適快適」
ここが惑星の環境を支える一番大事な施設であることを彼女はすっかり忘れかけていた。
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