空想お散歩紀行 雨が止んだら
「つまんないなあ~」
窓を伝う雨水を見ながら一人の少女がつぶやいた。
部屋の中は綺麗に整えられており、本や人形、その他彼女の遊び道具になりそうなものは豊富にあった。
しかし彼女は飽きていた。外に出たがっていた。
もう300年、この家から出ていない。
吸血鬼の彼女は、300年と少し前に、ちょっとした『いたずら』を起こしたことでここに閉じ込められてしまった。
吸血鬼は流れる水を渡ることができない。
決して止まない降り続ける雨。屋根を壁を濡らし流れ続ける雨は、彼女を外に出さないための封印装置というわけだ。
吸血鬼にとって300年など大した時間ではないが、さすがに変わり映えしない生活には少しうんざりしてきた。
「どうしよかな?あ、そうだ。前に本で見たおまじないでもやってみようか」
少女はおまじないのための材料を探しに部屋を出ていった。
そして翌日。
「・・・まさか効くとは」
自分でやっておいてなんだが驚きを隠せなかった。
窓の外は雲一つない晴れだった。そして窓の縁にぶら下がっているのは、5個の白い人形。
「てるてる坊主ってすごいんだ」
軽い気持ちで作った物が、奇跡を起こすとは、感心を通り越して逆に冷静になってしまう。
でもそれはすぐに彼女の心を通り過ぎていった。
自然と口の端が大きく持ちあがる。
「さーて、お出かけお出かけっと」
吸血鬼の少女は早速準備を始めた。
着替えて、髪をセットして、太陽対策の日焼け止めも忘れずに。
そして満面の笑顔で久しぶりの外の世界へと飛び出して行った。
その外の世界では今、蜂の巣をつついたような騒ぎになっているとは露とも知らずに。
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