空想お散歩紀行 復讐の一撃 中編
「ここが犯行現場ですね」
二人の刑事、島津と織田は連続狙撃殺人事件の一つである、女子高生岡野カスミを狙撃したと思われる場所へと足を運んでいた。
「確かにここからなら殺害現場まで一直線ですね」
織田は目を細めて殺害現場となった大型商業施設のテラスを眺めている。
しかし島津の方は空を見上げていた。
「・・・眩しいな」
「え?どうしました先輩?」
織田が怪訝そうな顔で島津を見る。島津はまだ空を見上げたままだ。
「ここって狙撃ポイントとして適切か?俺あんま詳しくねーけど、スナイパーって太陽を背にするのが基本って聞いたことあるぞ」
島津の言う通り、この場所から目標を見ると、太陽も正面に見据えることになる。
「スコープに光が反射してばれるとかなんとか、まあ戦場じゃねーからいいのかもしれねーけど」
「でも先輩、事件が起こった時間帯ってもう夕方近くでしたよね。だとしたら、あの建物に太陽隠れるんじゃないですか?」
織田が指を指すのは、まさにその大型商業施設。
「確かに、その時間帯ならそうなるか・・・なあ、スナイパーってどんなイメージだ?」
「え?そうですね。こう、獲物を狩るためにじっとそこで待ってるって感じですかね」
突然振られた質問にもそれとなく答える。島津がぶっきらぼうなのはいつものことなのでもう慣れっこだった。
「何か分かったんですか?」
「不自然さは感じてた。今回も、これまでの件も、狙撃場所が決していいとは言えない場所ばかりだ。ここもそうだ。周りにここより高い建物があまり無いとは言え、こんな所で獲物を待つのはリスクが高い」
島津の考察を聞きながら織田は頭をフラフラ回している。
「間違いなく一流の狙撃手なのに、一流じゃない・・・なんか分からなくなってきた」
彼女を横目に見ながら島津はただ考えにふけっていた。
犯行現場から車に戻ってきた二人。
「どうしました先輩?さっきから黙って」
「・・・さっき聞いた話、お前どう思う?」
「さっきって麗心女子高での聞き込みの話ですか?校長先生の?」
「いや、その後の」
「岡野さんの友達の話ですか・・・」
二人は被害者岡野カスミの件で岡野が通っていた麗心女子高に聞き込みに行っていた。特にこれといった情報が得られぬまま帰ろうとしたその時、二人に声を掛けた人物がいた。
それは岡野の同級生の友人だった。
「あの話が本当なら、まあ何と言うか・・・」
織田は何とも言えずに黙ってしまった。
「3番目の害者、もう一度調べなおすぞ」
「へ?3番目って言うと・・・高井さんでしたっけ。エリートビジネスマンの」
高井浩之、この事件の3番目の犠牲者。11人中4人は都内で殺されている。その内の一人だった。
「繋がるかもしれない」
島津はそう言うと車のエンジンをかけた。
翌日、署内の鑑識課の部屋に島津はいた。
「高井のPC?もちろん調べてるよ」
島津と同期の鑑識官がけだるそうに答えている。今回の事件の捜査で大分疲れているようだ。
「それは仕事のPCか?」
「いや、プライベートの方のPC。彼、仕事はきっちりこなしてる。特に違法なことをしていた気配すらない。いたって理想的なビジネスマンだよ。でも気になる物もあってね。何だか分かる?」
もったいぶんなと島津は目だけで告げる。
「日記だよ。彼の。ちょっと見たんだけど、まあいろいろあるんだねえ」
「見ることできるか?」
「いいけど、あまりおススメしないよ」
その時、島津の携帯の着信音が鳴った。相手は織田だった。すぐに通話ボタンを押す。
「あ、もしもし先輩?今高井さんの同僚さんへの聞き込み終わりました。先輩の言ってた通りです。高井さんは―――」
織田からの報告を一通り受け、島津は一つの仮説にたどり着いた。携帯をぐっと握りしめる。
「この事件は・・・復讐劇だったのかもしれない」 続く
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