空想お散歩紀行 魔法使い一人旅
「よし、今日はここで泊まるか」
私は小高い丘の上を今夜の宿泊場所と決めた。ここは今の時期、夜になると星見草がきれいに光を放つと地元の道具屋で聞いた。当ての無い旅はいい。その土地特有の情報を突然知ることができる。
「さて、暗くなる前にご飯作っちゃおうかな」
私は、この度のお供である「我が家」を見る。
私が開発した、移動式浮遊家屋『フワハウス』
浮遊石と風の術式の組み合わせ。それで家を地面から1メートルくらいのところで浮かせるということに成功した。
家と言ってもそんなにご大層なものじゃない。
内装は、寝るためのベッドにテーブルと椅子が一つずつ、そして簡単な調理をするためのフライパンややかん。火は魔法で起こす。後はお気に入りの本数冊と旅の途中で見つけて気に入った小物が少々。一人が寝起きするだけで精一杯。お客様を呼べるようなスペースはない。まあそうでないと浮かせられないんだけど。でも利点もある。少しでも重量を軽くするため、とことんまで中に置く物は厳選しなくてはならないので、必然的に自分の気に入った好きな物しか置いていないことだ。無駄な物はない。不満があるとすればお風呂が無いということ。水は重いので常に最低限しか積めないのだ。トイレは・・・まあ一人旅だからお察しだ。
動力は私の箒。馬車のように、私がこの家を引っ張りながら飛ぶというわけだ。だからなるべく家は軽くしなければならない。
旅を始めて数か月経つ。最初はなかなか慣れないこともあったけど、今は快適に過ごせている。なにせどこでもそこが家になるのだ。わざわざ宿を探す必要も無い。気に入った場所を見つけたら数日滞在するのもいい。気ままな魔法使い一人旅。昔からの夢だった。魔法使いは基本一か所にこもって研究ってのがお決まりだからね。でも、私は魔法使いとしてではなく、私として生きていきたいんだ。だから今の生活は満足そのものだ。
「今日の晩御飯は何にしようかなーっと・・・って食材まだ残ってたっけ?確かチーズがまだあったと思うけど・・・あれ?」
不便なこともいろいろあるけれど、それすらも楽しみながらまだまだこの生活はやめられそうもない。
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