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空想お散歩紀行 お宝いっぱいダンジョンとその主

「くそっ!何てダンジョンなんだ・・・」
天を衝くような高い塔の入口から、数名の男たちがボロボロの姿で出てくる。だれもが命からがらといった様相だ。
そしてその塔の最上階の一室で、その様子を水晶玉からの映像として見ている小さな影が一つ。
「まったく愚か者どもめ。二度と来るんじゃねえ」
水晶玉の映像を切って椅子から立ち上がったのは、見た目は精々10歳くらいにしか見えない少女だった。
しかし実は彼女、この塔の主である魔法使いで実年齢は400歳を超える。この塔に住みついたのはおよそ150年程前からだ。
その頃からこの塔には一つの噂が流れ始める。それは、誰一人として最上階にたどり着いたことが無いダンジョン。そこにはとんでもないお宝が眠っていると。
「まったくこの物件を手に入れた時はうれしかったんじゃがなあ。でかくて収納がいっぱいあるし」
ぶつぶつつぶやく彼女のそばに一匹のコウモリが近づいてきた。
「マスター。今回の被害は3階7号室の物だけで済んだようです」
「あのあたりの部屋にはそれほどレアじゃない物しか置いてないから良しとするか。まあ勝手に持ち出されるのは気に食わんが」
使い魔であるコウモリの報告に軽い苛立ちを覚える少女。もはやこれにも慣れてきてしまっている。
「いつになったら静かに暮らせるようになるんじゃろうか・・・」
はぁ、と大きくため息がでる。
彼女は長い年月を掛けて、世界中から様々なアイテムを集めるコレクターであった。そして自分の集めたグッズに囲まれて暮らすのを夢見てこの塔に住みついたわけだ。
「儂はただ、レアグッズを眺めながら一人静かに引きこもっていたいだけだというのに・・・」
「マスター、それは難しいかと」
使い魔が横から口を挟む。
「この塔の話は風よりも速く、日々人間たちの世界に広まっております。それと言うのもマスターが今なおアイテムの蒐集を続けているからですぞ」
「し、仕方ないじゃろ。欲しいものは次から次へと出てくるんじゃし」
「限度というものがあります。この世界の物だけならまだしも、マスターはその唯一無二の異世界に渡る能力で方々から物を持ってきすぎです!」
「だから!欲しくなるのは仕方ないと言っておるじゃろ!」
「異世界では大した価値が無い物でも、この世界では至高の宝になってしまうのです!だからこの塔が世界中から注目を集めてしまうのですよ」
「ぐっ・・・」
使い魔の言うことが正論すげて彼女は一言も言い返せなかった。
静かに暮らしたい。趣味である蒐集もしたい。でもそれをすると静かな生活から遠ざかる。この悩みが彼女を数百年悩まし続け、今だに解決の道が見えなかった。
できるのはこの塔に挑んでくる冒険者に対して、トラップや使役魔物たちで追い返す、といった対処療法だけだった。
「侵入阻止の結界張っても、なんだかんだで破ってくるしなあ人間どもは。なんでじゃ?なんでそんなに物欲があるんじゃ?強欲者共め!」
「マスターが言える立場ではないかと・・・」
その時、部屋に赤い光が灯り、水晶玉に映像が映し出される。どうやらまた冒険者が塔に入ってきたようだ。
「また人間のようですな」
「懲りんやつらじゃのう。それにしても、この間異世界で手に入れてきた、このセキガイセンセンサーとやらは使えるのう。侵入者が来たらすぐ教えてくれる」
少女は椅子に座ると、水晶玉に向き合う。
彼女の指が空を滑る。指先から発している光が空中に陣を描く。それが塔のトラップ起動のスイッチ。魔物召喚の合図だった。
「さて、今回も儂の優雅な引きこもり生活のために、とっとお帰り願うぞ人間どもめ!」

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