空想お散歩紀行 マッチング知らない世界へ
「彼女がほしい」
今年に入ってもはや何度言ったか分からないセリフを、現役高校生の少年ケンシはつぶやいていた。
せっかくの青春時代、彼女の一人も作らずに何が青春か。
「・・・正直、こいつには頼りたくはなかったが」
彼が手にするスマホの画面に映っているのは『誰にでもピッタリの相手がいます!世界中から理想の相手を見つけるお手伝いを致します!』
マッチングアプリというやつだ。
「正直怪しいという思いもあるが、それ以上にこれに頼るのは男として負けのような気がする」
しかし背に腹は変えられない。彼はそのサイトにアクセスすることを決意した。
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「今月の登録者数はどんな感じ?」
小さな事務所の一室でメガネを掛けた女性が同じくメガネを掛けた男性に話しかける。
女性の方は背中から小さな黒い羽根がちょこんと飛び出ていて、男性の方も同じく羽根が生えていた。
「順調っすよ。先月より20%アップしてます」
「思ったより順調ね。やっぱり私の見立ては正しかったわ」
「何だかんだ言って、みんなこういうのに飢えてたってことっすね」
二人して覗き込むPCの画面には、
『誰にでもピッタリの相手がいます!世界中から理想の相手を見つけるお手伝いを致します!』
二人はこのマッチングアプリの開発者であり運営者でもあった。
しかも二人とも人間ではない。
この世界に住むサキュバスとインキュバスである。
愛に飢える者に愛の手を。ただれた性欲と欲望の解放を、をモットーにこのアプリを作ったのだ。
「それにしてもおもしろいっすねよ。てっきり登録者は悪魔系が一番多くなるかなって思ってたら天使系が最多なんですから」
「おおっぴらに自分の欲望を出せない連中だから、こういうのがちょうどいいのよ」
このアプリに登録するのにはルールがある。
それは人間以外であること。人間以外であるなら悪魔、天使、鬼、幽霊、妖怪なんでもあり。そして異種族間のマッチングも普通にOK。
「登録者が増えるのはいいけど、セキュリティはちゃんとしなさいよ」
「分かってますよ。人間たちのネット使ってるんですから、そのへんはぬかりなく」
その時、PCの画面に新しい登録申請が届いた。
「お、また申請が来たっすね。ええと、ユーザー名KENSHI、男みたいっすね」
いつもの手順でちゃちゃっと登録を済ませる。
「さあ、いらっしゃい。今までにない出会いがあなたを待ってるっすよ」
「ああ、いいわねえ。今日もまた愛に溺れる命が一つ。愛の前に種族は関係ないわあ」
この時、まだ二人は気付いていなかった。たった今登録したのが、ご法度である人間であることに。ここに人間と異世界との繋がりがマッチングしてしまったことに。
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