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空想お散歩紀行 緑色の夢

「今日の成果を報告せよ!」
天を衝く高い高層ビルが立ち並ぶ区画の中に、偶然のようにポッカリと開いた四角い空間。周りの建物のせいで日の光りはほとんど当たらないが、それが逆に彼らにとっては好都合だった。
昼間から薄暗く、表の世界から切り離されたようなその小さな広場は、秘密基地としてうってつけだったのだ。
ここを使用しているメンバーは3人と一体。10歳一人と9歳の男女が一人ずつ、9歳の女の子が所有しているアンドロイドで構成されている。
リーダーの少年ラギに促されて、他二人のメンバー、ルウとメナが答えた。
「リーダー、俺はこんなの見つけました」
「リーダー、アタシはこんなの見つけました」
二人が差し出した手の上に乗っているそれぞれの成果物。
ルウの手には、変わった形のネジが数本。
メナの手には、何本かの色とりどりの紐が握られていた。平たく言ってしまえばどちらも単なるゴミである。
「スロット。これは例のモノか?」
ラギに言われて、メナの隣に立っていたアンドロイドのスロットが二人の手にある物を見る。
「・・・残念デスが、皆様がお探しの物である確率は非常に低いと思われマス」
淡々と答える声に、ラギはがっくりと肩を落とす。
「やっぱりか。一体どこにあるってんだ?」
彼らは自分たちのことを、トレジャーハンターグループ、カンナビ団を名乗っていた。
彼らが探すお宝はただ一つ、「ショクブツ」と呼ばれる物だった。
ここは工業と情報の惑星サスズ。惑星が一つ丸ごと機械化された都市として機能している。
地表は全て金属やプラスチックで覆われ、AIで完璧に制御されたインフラが都市中を走っている。
そんな惑星で生まれ育ったカンナビ団の少年たち。彼らがふとしたことで得た情報、植物。それはこのサスズには存在しないと言われている。彼らはそれに火を付けられ、以来どこかにあるはずだと信じている植物を探している。
彼らが持っている情報は、
・ショクブツを探すには、その前に「ツチ」と呼ばれる物を探す必要があるかもしれない。
・ショクブツは高い確率で緑色をしている。
・ショクブツは食べ物を作ることができたりする。
・ショクブツは自分自身を増やすことができる。
「リーダー、ショクブツってそもそも街の中に落ちてるもんなの?」
「食べ物作れるって、それってプラントみたいにおっきい物じゃないの?」
ルウとメナが好き放題にリーダーに疑問をぶつける。だが、リーダーと言っても1歳年上なだけの子供だ。何か知識があるわけではない。
「いや、何となくの勘だけど、そんなにデカいもんじゃないって気はするんだよなあ。って言うかスロット、お前何か知らないのかよ。アンドロイドのくせに」
「すみまセン。私はあくまで子守用アンドロイドですので、ネット等へのアクセスは非常に強い制限が掛けられているのデス」
優しい声で返答するスロットに、そうだよなと諦めの声でラギは返した。
改めてラギは胸を張る。二人の子分の前でリーダーとして弱気を見せるわけにはいかない。
「とにかく、俺たちカンナビ団はこれからもショクブツを見つけ出すことを続けていく!お前たちも普段から周りの情報を集めて、何かあったらすぐ俺に報告すること!では解散!」
三人で決めたカンナビ団式の敬礼をしてこの日はお開きとなった。

惑星サスズ、第258地区地下排水処理プラント通路内にて。
一人の男が息を切らせながら走っていた。
「はぁ・・はぁ・・撒いたか・・?」
後ろを振り返り、立ち止まる。
必死に走っていたせいか、体の節々が上げる痛みの声に今になってやっと気付いた。できれば休みたいと心の底から思ったが、体は歩き続けることを選んだ。
「この種子だけは、絶対に守り切らないと・・・」
男が大切に握る小さな袋。彼はまだその時、その大切な宝を小さな子供の手に託すことになるとは知る由も無かった。

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