空想お散歩紀行 多種族世界のカップル
夏。気温が上昇し、人々の熱気も上昇し、恋の季節なんて呼ばれる始末。しかし、
「はっきり言って、関係無いよね~」
一人愚痴をこぼす者がいた。
旅行代理店勤続135年。エルフのリンナはまだ客のいない店内で一人だらけていた。
「な~にが恋の季節よ。こちとら冷房効き過ぎの室内で一日中座ってるってのに」
ひざ掛けの位置をそっと直す。これがないと業務どころではない。
「・・・まずいな。このまま華の200才代を終えてしまうのだろうか」
外は雲一つない快晴で、今年一番の暑さを記録しそうだというのに、気分はどんどんと深く冷たい所へ落ち込んでいきそうになったとき、店の扉が開いた。
「いらっしゃいませ!」
助かったとリンナは思った。こういう時は仕事で気を紛らわすしかないと思っているからだ。
「えーと・・・」
店に入って来たのは、赤を基本色に所々金のラインが入ったデザイン。見るからに全てをはね返すかのような硬質で光沢のある体。
「機械族の方ですね。どうぞお座りください」
金属製の部品のみで作られている体を持つ機械族。
この炎天下の中を歩いて来たのだろう。体の周りに小さく陽炎が立っているように見える。
「ちょうど旅行に行きたいと思っていまして、いいプランがあればなと」
流暢な言葉で話す機械族の人。見た目のパーツから男性だろうと思ったがその通りのようだ。いつものくせでつい飲み物を出したが、意味が無いことに気付いたが、そのまま話を進めることにした。
「どういう所にご旅行をご希望ですか?」
「涼しい所に行きたいと思ってます。
「お一人での旅行ですか?」
「いえ、彼女と・・・」
どことなく機械の顔が赤らんだように見えたが気のせいだろう。
「ああ、いいですね。彼女さんも同じ意見なんですか?」
「あ、私も同じです」
いきなり、どこからともなく声が聞こえてきた。
よく見ると、機械族の男性が座っている席の隣の椅子も動いていることに気づいた。
それから、すうっと視界に一人の女性の姿が浮かび上がってくる。
それは薄青い色で全身が包まれている、長髪の女性だった。
「あ、彼女さんって幽霊族の方だったんですね」
この世界に暮らす種族はたくさんいる。そしてその数だけカップリングもあるのだが、機械族と幽霊族のカップリングはリンナは初めて見た。
カップルとして成立するんだろうか、下世話な話だが、恋人として営みとかどうしてるのか?とリンナは思ったが、
(そう言えば、機械族って機械の体とデータで生きてるから、パートナーに選ぶのもデータが重要って聞いたことあるな。そういうもんなのか)
珍しいものを見たからか、いろいろと聞きたい思いもあったが仕事優先。そこから旅行プランを組み立てていく。
二人とも暑さが苦手ということで、氷精霊が多く住んでいる万年寒冷の地域へのツアーとなった。
「それにしても、お二人とも仲がいいですね」
話し合いの途中、その雰囲気の良さが伝わってきて、いい意味で羨ましいとリンナはずっと感じていた。
「ええ、私幽霊族の中でも特殊でして、好きになった人に呪いが掛かってしまうんです。人間が相手だと、体がぐずぐずに腐っちゃうこともあるけど、彼はそれを受け止めてくれるんです」
「僕の場合はパーツが錆びるくらいですからね。それなら交換すれば済むし」
「・・・・・・」
さらっと何だか怖いことを聞いた気がするが、お互いが上手く言ってるならそれでいいかとリンナは流した。
そして、アツアツカップルが店を出て再び一人になった。
「特殊な組み合わせだけど・・・いいなあ~。恋したいな~」
リンナは冷房で冷えた体を温めるため、お茶を汲むために席を立った。
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