空想お散歩紀行 遺された知識
探検とは、まだ人が足を踏み入れたことの無い未知の領域を歩くことだと、何かで読んだ記憶がある。
そうであるならば、俺が今やっているのは探検ではない。
なぜならここには、間違いなく人がいた形跡があるからだ。
およそ100年前に世界が崩壊した、と言われている。でも俺が産まれたときには既にこうだったから別にどうでもいい。
崩壊とやらの原因はいろいろ聞いてきた。天変地異だとか、ナニかが甦ったからだとか、大戦争があったからだとか。それもどうでもいい。今がこうであることに変わりはない。
1年の半分は厚い雲に覆われた空。あちこちにある崩れた建造物。過去の人間が作ったと思われる道を食い破って生える草木。それが今俺が見ている世界だ。
数万、数十万という人間同士が戦うという戦争。そんなに人間がこの世界にいたのかと、どうも信じることができない。数百人で暮らすコロニーを見たことが精々なのに。
「隊長!入口開きました!」
報告に来た部下の一人に手を挙げて応えて、そっちへと向かう。
俺の仕事は、滅んだ文明の遺物を漁って何か使えるものを探し出す探検隊のリーダーをしている。
食いもんや飲みもんは期待できないが、作物の種子でもあれば儲けものだ。あとは、まだ使えそうな道具類なんかも発掘対象だ。
今回は瓦礫に埋もれていた地下への階段。その先の調査が目的だった。
「ようやく開けましたね」
「まずは俺とケン、カツト、ミユの4人で入る。他の者は待機。1時間経っても俺たちが戻ってこなかったら様子を見にきてくれ。よし行くぞ。天井の崩落に気を付けろ」
俺たちは地下へと潜る。そこには地上と同じように広がる道があった。どうやら地下街というやつらしい。
「なんかお宝があるといいですね」
部下の期待と共に進んで行くと、とある一角を見つけた。
「当たりだな」
俺は思わず顔がにやけてしまった。
半分入口が崩れかけていたが、慎重に中へと入る。そこにあったのはまさにお宝だった。
「すごい・・・こんなに本がたくさんある」
隊員たちも皆驚きで表情が固まっていた。
「どうやら本を売っていた場所だったみたいですね」
「地下にあったから風化があまり進んでないのか」
「よし、ぼやっとするなお前ら。まずは探索だ」
情報は食べもん以上に大事な時もある。本はかつてのこの世界からの贈り物だ。過去の知識で今の俺たちが生きていられる面も多い。
「最優先目標は辞書を探せ」
本がたくさんあるのはいいが、読めなきゃ意味がない。
ひらがなやカタカナと呼ばれる文字は習って知っているが、漢字というやつは数が多すぎて大人でも読めるやつはあまりいない。辞書というやつは漢字の解読に必須なSランクのお宝だ。
次いで、この周辺の地形を表すもの、道具の作り方や作物の育て方が書かれたもの、娯楽になる絵の多いもの。このあたりがランクの高い宝か。おっと、忘れちゃいけないのが女の裸が載ってるやつだ、これはSSランクだな。
と言っても、高ランクの本は少数でほとんどは何が書いてあるかも分からん物ばっかりなんだが。
「さて、先人さんたちよ。あんたらの遺した泉。有難くちょうだいさせてもらうぜ」
そう礼を言ってから、俺はこの紙の宝島の中へと進んで行った。
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