空想お散歩紀行 個人探偵と不思議な助手たち
「ありがとうございました」
深々と頭を下げお礼を言う中年男性。薄くなった頭頂部を気にすることなく、自分の目の前に座る若者にそれを見せている。その青年はずっと頭を下げお礼を言い続ける自分よりずっと年上の男に少しバツが悪い気持ちを抱きながらも、それを受け取っていた。
「ふぅ~」
大きなため息をつく青年。中年男性が部屋を出ていったあと、彼がまず先にしたのがそれだった。
ここは都内にある小さな探偵事務所。彼がここの責任者兼唯一の探偵、サカキ。
彼は、とある小さな会社から盗まれた金や権利書等々を取り返すという仕事を昨日終わらせたばかり。先程の男性はその会社の社長だった。
「あそこまで感謝されると、逆に困るな」
彼一人しかいない部屋でふと言葉が漏れる。
「俺自体はそんな大したことしてないのによ」
「そんなことないですよ~」
突然、彼の隣から声が聞こえた。
この事務所には彼しかいない。いや、正確には人間は彼しかいない。
「悪者を最終的に捕まえたのはサカキさんじゃないですか」
サカキの傍で一人の女性が姿を現わした。
だが、現れたその体は青白い色で全身が包まれており、なおかつ彼女の後ろの景色が透けて見えた。
彼女の名前はフウロ。れっきとした幽霊である。
「でも、その犯人に至るまでの情報はアタシが掴んできたんだけどね」
今度はサカキの正面から声が聞こえる。
しかし目の前にあるのは机だけで、その先には誰も立っていない。
すると机の死角になっているところから、ぴょこんと小さな影が机の上に乗ってきた。
それは薄茶色と黒白の毛並みの三毛猫だった。
「アタシのネットワークが今回一番の大手柄だったでしょ?」
尊大に振る舞う三毛猫のカフウ。机の上の書類を踏んでいるがそんなの気にもしない。
「そうだな。お前の言う通りだ」
すんなりと彼女の功を認めるサカキ。下手に彼女の機嫌を損ねるよりかはずっといいことを彼は知っている。だが、
「ふん、最終的にはそうだったかも知れんが、お主のご自慢の情報網とやらで捜査をかき回されて、いらぬ世話を焼かされたのも事実だぞ」
次に声が聞こえてきたのは、サカキの手元だった。彼が右手中指にしているリング。そこにはめ込まれている青い宝石からその声は聞こえている。
カフウよりもさらに上から、まさに自分こそが女王だと言わんばかりの気風が、その声だけからでも漂ってくる。宝石のツクヨミ。
サカキ探偵事務所はこの、人間、人外、猫、宝石の4名?で構成されていた。もちろん表向きは彼一人で活動していることになっている。
彼女たちはただ親切心で彼に協力しているわけではない。
各々が契約を結んでいるのだ。
フウロは自分を殺した相手を見つけること。
カフウは自分に猫の呪いを掛けた相手を見つけること。
ツクヨミは自分を宝石に封印した相手を見つけること。
それぞれの願いのもと、サカキの探偵業を助けているというわけだ。
この3人の協力があるからこそ、彼の探偵としての実績はかなり良い。
フウロは幽霊としての体を活かして、壁や天井をすり抜けて捜査ができる。
カフウは猫を始めとした、動物たちと会話ができるのでそのネットワークを活かした情報収集が得意。ただ動物相手なので情報の精度に少し難あり。
ツクヨミは自分を装着しているサカキに、能力を与えている。物に宿った残留思念を読む力や、単純な肉体強化など。封印される前は高名な魔術師だったとか。
「こらこらやめなさい」
ツクヨミの態度に怒ったカフウが、サカキの指ごと宝石を噛んでいる。
「いたた!何をするんじゃ!余の体に汚い牙を立てるんじゃない!三毛猫風情がッ!」
「は!アタシだって好きでこうなったわけじゃないわよ!希望できるんならシャムとかペルシャになりたかったわよ!」
そこなのか問題は?とサカキは心の中でツッコんだ。
「ケンカはだめですよ~」
フウロがカフウとツクヨミがはめてあるサカキの手を離そうとするが、幽霊なので実体のあるものは掴めずにいた。
これが彼のいつもの風景だった。
そして彼はいつも思う。自分が探偵になったわけを。
警察のような組織に縛られずに、かっこよく困っている人を助けて、女の子に囲まれて生活する。それが彼の目標だった。
今現在、彼は探偵として人助けをして評判も上々。そして3人の一応女性に囲まれている。
だが、やはり違うと彼は心の中で感じずにはいられないのであった。
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