空想お散歩紀行 鬼退治を退治
冷たい雨が降る深夜。廃墟となった町の崩れた建物の陰に傘を差して立つ人影が一つ。
「こちら、スカーレットドッグ。標的を確認した。どうぞ」
無線通信機に語りかけるのはまだ少女だった。
その少女の視線の先には、ゆっくりと歩く2体の影。人の形をしているが人ではない。
「対ウイルス感染体攻撃システムMOMO」
その端末だ。
今から半世紀前、世界に一つのウイルスが蔓延した。それは犬、猫、ライオン、とにかく動物と呼ばれる生き物をことごとく狂暴化させるもので、しかもその動物本来の能力を遥かに凌駕する力を出させた。
さらに共通するのはそれらの生物が人間の血肉を好物としていること。そのウイルスに感染した動物は全て、「オーガ」と呼ばれるようになった。
オーガによる人間への被害が深刻になった頃。とある企業が開発した人型兵器が状況を一変させる。
それは、ウイルスに感染したオーガのみを標的に攻撃する物で、頑丈な肉体と人間を上回る運動性能、そして強力な武器で次々とオーガを倒していった。
人間を守るため次々と量産されていった兵器たち。人々は喝采を持って歓び、平和な時代がもうすぐ来ると希望を見た。
しかしそうはならなかった。
理由はウイルス。動物を狂暴なオーガに変えるそのウイルスは人間にも実は感染していた。しかし人間には無害であり発症することはなかった。
しかし、何千という兵器を一括で統制する中央制御端末であるMOMOは、人間もウイルスに感染したオーガであると判断。
人間を攻撃し始めた。
そして時が流れた。
「どーする?相手は2体みたいだけど、他に仲間がいるかもしれない」
通信機から男の声が聞こえてきた。
「まだ待機だ。サンライトモンキーが配置についていない」
「早くしてくれる。雨やんじゃうわよ」
彼女たちはこの世界で、動物のオーガと対オーガ兵器に挟まれながら生きている。
例のウイルスは人間に感染したのち特に健康に害は及ぼさないが、遺伝子の一部を改変した。そしてその遺伝子は次代の子供たちに確実に遺伝する。つまり、彼女たちは生まれながらにして感染者と同等なのだ。
しかし、人間は決して黙っていたわけではない。世界を取り戻すため組織を作り、戦いを開始した。彼女もそのいくつもある組織のうちの一つに加わっていた。そして、いくつもの死線を潜り抜けてきた。
今もまた、その一つに挑もうとしている。
人間の力を遥かに凌ぐ、かの兵器相手に単騎で挑むことは無謀だ。基本は連携による攻撃。そして、雨の日は兵器たちの性能が少しだが下がることが分かっていた。
「よし。準備は整った。シアンフェザントも狙撃位置に着いた。目標は確認できている」
再び無線機から男の声が流れ、少女は一度深呼吸をする。
そして、一つのカプセルを取り出すとそれを飲む。
ウイルス感染により変異した遺伝子に作用する特殊な薬。それにより短時間だが身体能力が全体的に向上する。
「作戦はいつも通り。スカーレットが暴れて、残り二人がそれを援護」
「了解」
少女は銃を構えると建物の陰から飛び出す。いつまでこの戦いは続くのだろうかという疑問はこの瞬間に吹き飛んだ。
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