空想お散歩紀行 こだわりは素材から
Tシャツにつなぎ、つばの広い帽子に長靴。どこからどう見ても農業をする人のスタイルにしか見えない格好をした女性が立っていた。
彼女は、自分の背丈よりも大きく成長した木を見てひとまず安心といった表情を浮かべている。
格好こそ農作業をしている人だが、彼女はれっきとした魔法使い、魔女だった。
魔法を使う者たちが通う大学、そこの学生である彼女は今、あるレポートを作るための作業の真っ最中だった。
それは、世界各地の伝承に残っており言い伝えられている、『お菓子の家』の再現。
伝承と言うよりおとぎ話の類だが、その話に出てくるのは紛れもなく魔女だ。
しかしお菓子の家を作るという魔法は存在しない。お話では、お菓子の家はお腹を空かせた子供を誘いこむための物らしいが、そんな都合よくお腹を空かせた誰かが来るわけもなく、単に誘いこむためのトラップ魔法ならもっと便利なものがいくらでもある。
魔法とは効率的なものなのだ。
さらに、家を建てる材料になるようなお菓子を作り出す魔法も存在しない。魔法など使わなくても、お菓子なら買えばいいのである。
魔法とは現実的なものなのだ。
だが、だからこそ彼女はあえて魔法を駆使し、お菓子の家を作ることにしたのだ。学問とは無駄だと思えるようなことを真面目に考えるものだからだ。
彼女はまず、家の素材になるお菓子作りから始めた。
チョコレートの欠片に生命魔法と植物魔法を掛け、自分を種だと思わせる。
同時に時間魔法も掛けて、成長の時間を短縮。
最初はなかなか芽が出なかったが、やっとの思いで発芽に成功。
その後は、砂糖を加えた水やクラッシュアーモンドを肥料にしてみたりと試行錯誤の結果、今や彼女の背を超えるほどの樹木にまで成長した。
後は同じ要領で、チョコの木、クッキーの木と立て続けてに育てている。
後はこれらのお菓子の木を、本物の木材のように加工すれば建築材の完成となる。
他にも建築に使うための素材をそれぞれの方法で作成していた。
ここまで来れば、あとは家の設計に着手に移れる。
正直、彼女はここの作業が一番楽しみだった。
チョコのドアに、クッキーの壁、飴細工の窓と外装や内装をどのようにするかデザインを考えるのがおもしろくて仕方なかった。
せっかく建築素材から自分で作ったのだから、とことんこだわりたい。彼女の中でメラメラと闘志が湧き上がる。
それは魔女として、と言うよりも職人気質の方が強くなっているのかもしれなかった。
その証拠に、お菓子の家は予定よりも大幅に時間を使い完成に至ることになる。
だがその結果、彼女の作品は保護魔法を掛けられ、しばらくの間大学内に展示されることになるのだった。
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