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空想お散歩紀行 人間としての機械生命

外は夜。しかも雨が降っている。普通であれば人々は外に出たいとは思わないだろう。
しかし今は違う。雨の闇の中に、大勢の人影があった。
その一帯は、赤や青の光が入り乱れており、一目で日常ではない空気が感じられた。
その光の正体は警察車両の群れだった。
何人もの警察官が互いに何かを話し込んでいたり、一般人の車両の交通整理をしていたり、周辺を何かを探すように注意深く監視していたりした。
単独で行動しているように見える警察官も、常に情報交換をしながら仕事をしている。しかし彼らの手に通信機のようなものは見えない。
それもそのはず、彼らは機械化された電脳で常に頭の中がネットに接続されている。
ヒューマノイド。この場にいる警察官のおよそ半数は造られた機械生命体だ。
過去数度に渡る世界大戦で人類はその数を減らし、そして遺伝子に関わる原因不明の奇病のために子孫を造りづらい体になっていた。
減り続けようとする人口を補うために、創り出されたのが造られた生命、機械生命体だった。
最初は便利な人間の代わりの労働力として扱われた彼らも、長い時を経て人類と同じように人権を得るようになる。
しかしそのためには条件がいくつかあった。
まず、既存の人類の数を超えてはならないこと。そのためヒューマノイドを造る企業には制限が課された。現在ではどれだけの数のヒューマノイドを造れるかでその企業の力が測れる一つの指標となっている。
そして、ロボット三原則は守ること。人間と対立することは許されているが、それはより良い結果を目指すという前提の話であって、決して人間に危害を加えるようなことはしてはならない。
そして、最も重要と言われているのが『寿命』である。
人権を認める以上、ヒューマノイドを人として見なければいけない。そこで部品を交換すれば永遠に生きられる者を人と認めることはできない。
なのでヒューマノイドはその製造過程においてパーツが時間で劣化するように造られる。ちょうど人間が老いるように、徐々にその機能が停止の方向に向くようにするのだ。
あえて不完全にすることで、ヒューマノイドは人間社会の一員として認められるようになった。
とは言っても、人間の側も体の一部を機械化したり、電脳化しているので、純粋に頭のてっぺんから足の先まで生身という者はもはや少数と言ってもいいかもしれなかったが。
そして今回、警察が駆り出された理由はまさにそのヒューマノイドに関してのことだった。
とある企業、年間生産数もさほどではない、言ってしまえば零細企業で造られたヒューマノイドにエラーが発覚した。
それは、部品劣化工程の未実施。つまり半永久的に活動できるヒューマノイドが造られてしまったのだ。
それらは判明しているだけで今のところ8体。正式な起動前として倉庫に置かれていたが、何かをきっかけに自律起動をし逃亡した。
おそらく自分たちが不良品であること。このままでは劣化処理されてしまうことに気付いたのだろう。
軍事用ではない、あくまで一般人タイプのヒューマノイドだから、大きな力を持っているわけではないが、何をしでかすかは分からない。永遠に近い命を持った人間がいたとして、そいつが何を考えるのか分からないように。
一刻も早い回収が現場の警察官たちに命じられた。
捕獲の際には多少荒っぽいことになっても構わないとのこと。
なぜなら、相手は劣化処理を受けていないヒューマノイド。法律上は人権を認められていないのだから。
雨が益々強くなってきた。この闇が明けるには、もうしばらく時間が掛かりそうだった。

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