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空想お散歩紀行 血の一滴、骨の一片、魂の一粒、あなたの気持ちが誰かを救う

長く旅をしているといろいろな景色も見ることができるし、いろいろな出会いもある。
「えーと、あなたの協力で多くの命が救われます、か」
俺が今いるのはクシキという街で、聞いた話では医療が昔から有名な街だとのこと。
「確かにそこら中病院だらけだな」
ほんの少し歩けば、薬局や個人経営と思われる診療所がいくつもある。
ただ医療で有名だけあって、人間相手にとどまらず、多種族に対応しているのは素直にすごいと思う。
「獣人族、エルフ族、有翼人にドラゴン族、お、天使族のまであるのか」
彼らがどういった病気にかかり、どのような治療をするのか見当もつかないが少し興味はあった。
「ちょっとちょっと、そこ行くお兄さん」
突然背中からの声に振り返ると、そこにいたのは黒い帽子を被った少女。帽子と髪で分かりづらいが両目と額に瞳が一つ。多眼種族のようだった。
「お兄さん見たところ旅の方ですね」
「ああ、そうだけど」
「やっぱり、体格が違いますよね」
何だろうか?何かの客引きとかだと面倒だ。さっさとその場を立ち去ろうとしたが、
「ああ、別に怪しい者じゃありません。実は協力をお願いしたいのです」
「協力?」
すると少女は上に向かって指を差した。
その先にあったのは、先ほど見た看板。と言うか街の至るところにその看板はあった。
あなたの協力で多くの命が救われます。
「ああ、あれか。さっきから何度も見たけど、何のことだ?」
少女はこほんと一つ咳払いをすると
「この街はどんな種族の方にも満足いく医療を心掛けてはいますが、それもちゃんと物資があることが前提です。薬、医療器具、そして生体材料とかです」
途端に説明口調になる少女。たぶんいつも言っているお決まりのセリフなのだろう。
「生体材料?」
「まあ一番分かりやすいのは血ですね」
それなら聞いたことがある。怪我とかで大量に出血した人間を他人の血で助けるってやつだ。俺も昔一度、路銀ほしさに血を売ったことがあったな。
「旅をする方は強い体の持ち主が多いですからね。なので協力を頂きたいのです。献血でもいいし、献骨、献魂でもいいですよ」
「けん、何?」
聞きなれない単語に俺は思わず聞き返した。
「献血以外にも、献骨、献魂でもいいですよ、と」
「だからその、けんこつとかけんたまって何だ?」
「なるほど、ご存じありませんでしたか。ここは多種族に対応した医療の街です。つまりスケルトン族とかゴースト族のように、血が通っていない種族も数多く訪れます。そういう方たち向けの治療に必要なのです」
「血なら採られたことあるけど、他のはどうやるんだ?」
「献血と大体同じですよ。ちゃんと魔法術式で採取します。血を採るのと同様に骨を作る成分を吸い出します。魂の方は、なんか、こう生気?というか、やる気?みたいなものを頂きます」
妙な歯切れの悪さに俺の中に一気に不安が高まる。
「大丈夫なのか?それ」
「精神体種族の医療は私よく分からないんですよ。私はあくまで従事スタッフであって技術者ではないですからね」
三つの目で、ふふんと言わんばかりに見てくる少女。今のどこに自慢する要素があったのだろうか。
「とにかく安全性は保障します。それに協力してくれたら、この街の買い物で使える割引券とかサービスしますから」
「分かった分かった。協力するよ」
ぱっとこれまで以上に一段と少女の顔が明るくなる。この調子だと、どうも逃がしてくれそうになかったからな。別にいいか。
「で、実際のところ、俺一人でそんなに役に立つのか?」
「問題ありません。今の魔法技術で人間の血や骨も他の種族に適合できるよう変えることができるんです。まあ副作用の恐れがあるから、できるなら同種族からの提供が一番いいんですけどね。さあ行きましょう」
ふーんと思いながら、俺は少女のあとについて歩き出す。旅は道連れ世は情け。ま、こんなこともある。

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