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空想お散歩紀行 夜に舞う氷の蝶

昼間の炎天下から一転、夜の闇に包まれた街。
しかし、その熱はもしかすると昼間よりなお熱く人々をたぎらせているのかもしれない。
そんなとある街の一角のとある夜の店。
クラブ。夜にだけ輝く蝶とそれに引き寄せられる者たちが集う場所。
世間にクラブは数あれど、その店はさらに普通とは違ったものだった。
そのクラブは夏の間だけしか開店しない、知る人ぞ知る店であった。
ワンシーズンのみの店にも関わらず、その店に在籍する、いわゆるホステスと呼ばれる女性たちは皆一様に美しかった。
皆透き通るような白い肌で、その瞳に見つめられると、どんな男も心を平静には保てない。
心の臓が熱く燃え上がるのを感じるのと同時に背筋に氷を入れられたような寒気をも感じる。
その不思議な、妖しくそして危険すら感じる魅力にすっかり骨抜きになった男も多く、毎年夏になると必ず通い詰める者も出るほどであった。
では、そんなホステスたちは一体どこから来ているのか?なぜ夏しか彼女たちは現れないのか?
それには理由があった。
実は、この店に在籍している全てのホステスの正体は、雪女なのである。
冬の間は山で活動する彼女たちは、夏の間だけ街に出てホステスとして働いているのだ。
なぜなら雪女は、夏は暑いので、溶けて水になるからである。

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