空想お散歩紀行 魔女と冒険者
カランカランと、ドアに取り付けられた鈴が音を出す。
「あ、いらっしゃいませー」
客が入ってくると同時に声を出したのは少年だった。だが、よく見ると少年の肘や手首、膝などの間接部は普通の人間のように滑らかではなく、球体がはめ込まれている。少年は魔力で動く人形だった。
「や、久しぶりね。あいついる?」
「はい、マスターなら奥に」
店に入って来たのは一人の少女だった。しかし年ごろの女の子がするような可愛いお出かけ用の服ではない。所々汚れや痛みはあるがしっかりと作られた実用性重視の丈夫な服。彼女は冒険者だった。
「おやおや、今回は思ったより早かったじゃないか」
店の奥から出てきたのは、黒髪を腰のあたりまで伸ばした女性。一見すると若く見えるが別の角度からだと円熟した魅力も垣間見える。魔女、そういう表現が一番しっくりくるかもしれない。
「はい、今回の依頼物」
冒険者の少女はそう言うと、ぶっきらぼうに腰に付けいていた袋をテーブルの上に置いた。
「まったく、今回も死ぬかと思ったわ。聞いてないわよ。あんなモンスターが出るなんて」
「現地で最新の情報を手に入れて行動するのも冒険者の基本じゃなかったっけ?」
「割に合わないって言ってんのよ。報酬、上げてもらうからね」
少女はぶーぶーと文句を言いながら、人形の少年が入れてくれたお茶をぐっと飲み干す。
「第一何度も言ったと思うけど、こんな所に店構えるなって。ここに来るだけでもメンド―なのよ」
その店は中央都市からそれなりに離れた森の中にぽつんと建っていた。
「研究と商売を両立するにはちょうどいい場所なのさ」
「こんなところに客が来るのが不思議でならないわよ」
用事を済んだことで、立ち上がった少女を魔女が引き留める。
「そうそう。で、次の依頼なんだけどね」
「はあ!?私少しは休もうと思ってたんですけど?」
「まあまあ、いいじゃないか。大体、あんたの旅の路銀は誰が出してやってると思ってるんだい?」
魔女は少女の言い分などお構いなしだ。その目は有無を言わさない光を持っている。そして同時に確信も。
「うう・・・で、今度はどこに行くのよ」
「ローザス地方の南。アストレア王国よ」
「行ったこと無いわね」
「そうだろう。あそこにはね、そこでしか見ることができない生き物や自然現象がいくつもあるんだよ」
魔女は確信していた。少女が決して断らないことを。
「ふーん、なるほどね。・・・分かったわよ行けばいいんでしょ。行けば」
「よろしくね。詳しいことはメモに書いてあるから」
人形の少年からメモと旅のお金を受け取ると少女はささっと店から出ていった。
結局彼女も冒険者としての血にはどうしても逆らえない。その足取りはどこか楽し気に見えた。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?