空想お散歩紀行 世界温泉巡り紀行
旅は道連れ世は情け。旅のおもしろさは出会いか?風景か?食事か?
いや、温泉だ。
「と、こんな書き出しで始まってる温泉旅行ガイド、ついに手に入れたよ」
二人の男女が連れ立って歩いている。
二人は最初は別々に生きてきた旅人どうしだった。
旅の路銀稼ぎに冒険者ギルドでクエストをこなすためにたまたまパーティを組むことになった。それが何度か続くうちにお互い惹かれ合い、そのまま結婚し夫婦となった。
だが2人とも元々一つの所に住むよりも歩き続けることの方が好きなので、結婚したと言っても腰を据えることなく、今もまだこうして旅を続けている。
一応今は新婚旅行ということになっているのだが、普段から旅をしている二人にとっては特段特別な感じはしなかった。
「今まで立ち寄った所がたまたま温泉宿ってことはあったけど、温泉目的で旅したことはなかったなー」
夫が持ってきた本をペラペラめくりながら各地の写真と文章に目を通す新妻。
「この本のすごいところはね、一人の冒険家が世界各地の温泉を全て渡り歩いているところなんだ」
得意気に話す旦那だったが、それに対して妻の方は至って普通のリアクションだった。
「別にそれくらい普通じゃないか?世界中歩き回る冒険家なんてそこら中にいるだろ」
「いやいや、すごいのは『全ての温泉』に入ったところなんだ」
夫が本を取り上げ、ページをめくる。そして目的の箇所を指差す。
「ほら、ここ」
覗き込むと、そこに載っている写真は一面の冬景色。雪と氷、画面は白と青が支配していた。
「いや、雪国の温泉なんてあたりまえすぎて・・・」
と、そこで新妻は異変に気付いた。
写真の中央に映っている温泉。そこには本の著者である冒険家が浸かっているのだが、その体が妙に赤く光っているのである。
「気付いた?そう、この人サラマンダーの護符を付けて浸かってるんだよ」
「・・・何で?」
サラマンダーの護符。火の精霊サラマンダーの力を宿し、身につける者に一定時間炎属性を付与することができる。
「ここはね、雪女とかイエティとかが来る温泉なんだよ。お湯、って言うか水の温度はマイナス10度。でも普段マイナス50度以上のとこに住んでる種族からすればれっきとした『温泉』なんだ」
この本の著者の冒険家は、全世界の『全種族』の温泉を制覇した冒険家ということらしい。
「なんでまたそんなことを・・・」
「温泉好きなんだね」
理解できないと言った表情の妻に対して旦那は純粋に感心していた。
少し嫌な予感がしながらもページをめくると、頭から足先まで全身を覆う特殊金属の鎧を着て、ほぼほぼマグマ状の温泉の中に入っている写真があった。
「それは、さっきのと逆で炎系の種族のための温泉だね」
さらにページをめくると、毒の温泉、電気の温泉、目には見えない温泉と、あらゆる種族用の温泉の紹介が事細かに載っていた。それら全てにその著者は対策をして浸かっている。
「ここまで来ると温泉に入りたいのか、単に極限のチャレンジがしたいのか分からないわね」
そしてその本の最後の方のページには、これら自分以外の種族用の温泉に入るためのマジックアイテムの紹介もしっかり載っていた。
「ちゃっかりしてるわね」
自分の冒険と商売を両方こなしているそのやり方には少しだけ感心した妻であった。
「でさでさ!どこの温泉に行こうか?僕としてはこの天空―――」
「いや、普通のでいい」
妻は即答した。
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