空想お散歩紀行 異世界転々々々・・・生
怒号が飛ぶ。いつものことだ。
ハゲ頭を真っ赤にして、機械化した目と耳だけは冷たく光っている。
いくらサイボーグ技術が発達したからといって毛根までは再生できないらしい。
そんなこの会社に872人いる部長の一人が俺を含めて7人の部下を一列に整列させて説教をしている。
まったく、これが世界を牛耳る5大企業の中の一角を担う我が社の部長としては余裕がなさすぎではないだろうか。
ちらりと横を見ると、俺以外のやつらは皆顔を青くして怯えている。心底この部長を怖がっているのだろう。
だが俺は何とも思わなかった。こんなことは今までの人生のうちでは怖いなんてレベルにすら入らない。
そう、いろいろあったからな。
最初の俺は、いわゆるどこにでもいる普通の男だった。これといって長所は無いが致命的な短所もないような。
そんな俺はある日交通事故に遭って、死んだ。
だが、その後俺は全く知らない所で目覚めた。
しかも赤ん坊になっていた。それまでの人生の記憶は引き継いだまま、生まれ変わったのだ。
いわゆる異世界転生というやつだ。アニメとかでしか聞いたことの無いものが俺自身に起こったのだ。
起こってしまったものはしかたがない。俺は新しい人生を歩み始めた。
転生したそこは魔法が存在する世界で、俺はどうやら魔法の才能があるらしかった。
魔法の力をメキメキとつけ、俺は名を上げていった。
パッとしないと思っていた前世から一転、俺はようやくここで幸せを得ることができると思っていた。
が、結局俺はその世界での戦いの中で死んだ。
そしたらまた知らない所で目覚めた。もちろん赤ん坊として。
また転生したのだ。
今度は西部劇のような、銃が支配する世界だった。今まで当たり前のように使えていた魔法なんてものは当然存在しない。一からやり直しだ。
俺はその世界で生きるためにいろいろとやった。銃も使ったし、あくどいことも何回かやった。
そして、また死んだ。
そして、また生まれた。
それを何回も繰り返し、いろいろな世界を渡り、今は科学技術が極端に進化した、国家ではなく企業が世界を統制する世界にいる。
一応この世界での俺は今28歳なのだが、本当は自分が何歳なのかももはや数えるのをやめている。
どんなにその世界で才能があり、どんなスキルを身につけようと、次の世界ではほとんど使えない。それが繰り返されては虚しくなるのも当然だろう。一体俺の履歴書の職歴欄はどれだけになっていることやら。
まあ、度胸だけはついたかもしれないが。
今、目の前で怒りを露わにしている部長。確か55歳くらいだと思ったが、本当の俺の年齢からすれば遥かに年下なのは間違いない。
それに、ドラゴンや本気で殺しにくるイカれた荒くれ者、戦場の兵士とかに比べれば、これっぽっちも怖くない。不快ではあるが。
まだまだ終わりそうもない部長の説教。俺はただただ必死にあくびをかみ殺すことだけに意識を割いていた。
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