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空想お散歩紀行 3色テロリスト:黄

大陸横断巨大飛空艇「ビフレスト」
現在、上空8000メートルを飛行中。目的地は貿易都市アスガルド。乗員約1800名を乗せ、今夜一晩を掛けて飛び続け明日の朝に到着予定。そのビフレストの第4デッキ、
この船で最大の広さを持つビアホール。ここはお手軽な値段の客室に泊まっている旅人や商人などが利用しているのが主なので文字通り多種多様な人間たちでごった返している。その雑多な人込みの中でさえ、さらに異質な空間が一か所できていた。そこにいるのは男女が合わせて17人。体格も服装もバラバラで統一感が何もない。各々今は好きなように飲み食いしている。その時、
「さあ!諸君!俺たちの舞台は整った」
その中の一人の男が全員に声をあげる。決して大きな声ではない。周りの喧騒に紛れて消えてしまいそうではあるが、その男の声は間違いなく全員にはっきりと通っていた。
彼らはテロリスト(自称)「ミッズガル」
彼らは世界各地で「笑い」を起こしていた。時にはトークで、時には大道芸で。様々な手段を用いて、無許可で無差別に。彼らにとって場所は関係ない。そこが街中だろうが、王宮だろうが戦場だろうが、彼らが現れたらそこに最もふさわしい空気など微塵も無く壊される。今回この船に乗り込んだのは、この船には貴族から旅人まで幅広い人間が乗っていることと、空の上をステージにしたことはないからだった。
「いやあ、初めてだよなあ。こんなステージは。やっぱアレかな?空の上だから空気が薄いだろ?だとすると爆笑すると酸欠になっちまうのかな?」
周りの仲間は特に返答はしない。いつものことだからだ。
「まあいいか。笑いすぎで死んじまったとしても幸せな死に方だしな。俺たちがやることは変わらん。ただ笑いで誰もが当たり前だと思ってる空気をぶっ壊す。ああそうだお前ら、おひねりもらえるならもらっとけよ」
彼が一通り言いたいことを言い終わったのを確認すると仲間たちはそれぞれ黄色のスカーフを取り出し身につける。バラバラな服装の彼らの唯一のトレードマークだ。
「さあ、ここの乗客全員抱腹絶倒!足腰立たなくなるまで笑わせてやろうぜ!」
奔放の夜が幕を開けようとしていた。この月と星がきらめく空の上で。

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